第5話「悲しい時ほどよく笑う」
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なくてはいけない。
しばらくして、茂みの中でボロ小屋を見つけた。高杉はそこで雨を凌ぐことにした。
もう何年も使われていないであろう小屋の戸を開けて、中に入った。
この時――小屋に入ったのが彼でなく兄だったなら、少女の運命は大きく変わっていただろう。
* * *
「!!」
入った途端嗅覚を襲う、強烈に血生臭い匂い。
高杉は思わず腕で鼻を覆う。悪臭がどこからきているのか探そうとするも、小屋は暗闇に包まれよく見えなかった。
だが、気配を感じる。人間か天人か、誰かいるのは確かだ。
「誰だ」
敵かもしれないと警戒しながら、高杉は相手の反応を確かめる。
「……た…か…すぎ……」
返ってきたのは、とても……とても弱々しい少女の声。
それが幼少の頃から同じ私塾に通い、今は共に戦場に立つ仲間の声だと分かって、高杉は安堵した。
「双葉、そこにいんのか?」
少女からの返事はない。
何かおかしい。
いつも彼女が持つ強気は、どこからも感じられない。
いやそれどころか生気すらも……。
妙に思っていると、ボロ小屋の僅かな隙間から外の微弱な光が入ってくる。そして 暗闇に慣れた高杉の瞳に見えなかった少女の姿が浮かび上がる。
少女は――双葉は頭の毛先から足の爪先に至るまで深紅に染まっていた。
「双葉!」
全身血だらけの双葉に驚愕しながらも、高杉は彼女の元に駆け寄った。
「どこを殺られた!?」
「……ない……」
口からこぼれる微かな声に、高杉は眉をひそめる。
「……わた…の…じゃ……天人…みんな……血……」
今にも消えそうな声で双葉が呟く。
次第に何かを怖れるように、彼女は小さく震え出した。
「……岩田の…潰した……みんな……笑顔……わ……たし…が……」
見開かれた瞳で虚空を見据えながら、支離滅裂に言葉を吐く双葉。
普段冷静に満ちた姿からは想像できないほど、酷く怯えている。別人かとさえ思うほどだった。
錯乱する彼女に愕然としつつ、高杉は落ち着きを取り戻すよう双葉の眼を真っすぐ捉え、声をかける。
「落ち着け。何があった?」
「……わたしが……わた…しが……」
肩を掴んで大きく揺さぶっても、双葉はうわ言のように呟くばかりだった。
「あはは……ハハ……ハハハ」
呆然としていた顔がほころび始める。
いつしか動揺は何かに変わり、彼女の口元を引きつらせていく。
「私が岩田を殺した。天人もみんなも殺した」
そこで双葉は初めて高杉に瞳を向けた。
泣いてるのか笑ってるのかさえ区別できない表情で言いながら。
高杉はそんな彼女をただ黙って見ているだけだった。
「殺すと無性に嬉しくなって。殺したい衝動に押されて」
異常な恍惚感に満たされた双葉は、殺
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