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第一章
開封の夢
「さあさあ、遠慮なさらずに」
「いやいや」
書生の林回は宴の場において恰幅のいい男に声をかけられていた。見れば卓の上にはこれでもかという程の御馳走が置かれている。
「まさかこれ程とは」
「何を仰いますか」
その恰幅のいい男は満面の笑顔で彼に言ってきた。
「まだこれからですぞ」
「これからですか」
「折角進士に及第したではありませんか」
進士とは官吏登用試験である科挙の最終試験である殿試、皇帝自らが執り行う試験に合格した者のことを言う。これに合格、即ち及第すればそれでもう将来は約束されたものだ。彼は今その進士になったことを祝われているのである。
「それを祝うにはこの程度ではありませんぞ」
「そうなのですか」
「酒も特別なものを用意しておきました」
男は満面の笑顔で彼に告げる。
「その酒はですな」
「はい。その酒は」
「遠く大秦より持って来たものです」
「ほう。あの地からですか」
「左様。ここまで持って来るのに手間隙がかかりました」
男は言う。なおこの大秦というのはビザンツ帝国のことである。シルクロードや海路で宋とは交流があったのである。大秦はかつてはローマ帝国のことでありその後継国家であるビザンツ帝国にその呼び名が受け継がれているのである。そういうことであった。
「海を延々とですから」
「海をですか」
「西夏がいますので」
宋の敵国である北方の異民族の国家の一つである。
「今我が宋とあの国は衝突していますね」
「不埒な話です」
言うまでもなく宋人である林回にとってはまさにそう言うべきことであった。
「一刻も早く遼共々何とかしなければ」
「それを為すのが貴方なのですよ」
男はその満面の笑みでまた彼に告げてきた。
「進士になられたのですから。ですから」
「そうですね。軍を動かすこともできます」
「そうです」
宋は文官が優位であった。武官はその下に置かれていた。これは軍の反乱や暴走を抑え的確にコントロールする為である。
「ですから。是非」
「わかりました」
「されではその酒ですが」
ここでその大秦の酒が出された。
「ささ、どうぞ」
「むっ、これは」
杯は銀だった。見れば皿も銀である。そしてその酒は。
「紅いですね」
「葡萄の酒です」
「葡萄の酒といいますと」
それを聞いて彼もわからない筈がなかった。それだけの素養は進士に及第するだけあって備わっていたのである。
「あれですか。涼州の詩に詠われている」
「そう、それです」
男の方も答えてきた。
「あの葡萄の杯です。何でしたら夜光杯もありますよ」
「それまでですか」
ただ豪奢なだけではない。そこには風流もあった。まさに真の贅沢
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