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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とある鍛冶師、盗み聞く
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行ったところで、ユノの感情を余計に掻き乱すだけだろう。
現に、自分は忠告のつもりで言ったにも関わらず、言い方がキツかったせいでユノを泣かせてしまうという失敗を犯したこともある。
まして自分は、ユノがここまで取り乱している理由も知らないのだ。
慰めるつもりが逆効果になり、かえってユノを精神的に追い詰めてしまうようなことにでもなったら、今後の関係に支障をきたしかねないだろう。
うっかり背負うこととなってしまったこのアバター名のせいで、ゲーム開始からこのかた仲間に恵まれなかった彼としては、せっかく築き上げた関係を壊すような真似はしたくなかった。

―――まあ、あのガキに任せるか……。

事情も知らない自分が乱入し、下手に慰めようとするよりも、誰よりも付き合いが長く、誰よりも多くユノのことを知っている彼女―――シェイリに任せておいたほうが、お互いにとってもいいだろう。

幼い顔立ちにふにゃっとした笑顔が印象的な少女は、このゲームが始まった日―――あの“はじまりの日”にユノと出会って以来、ずっと行動を共にしてきたという。
出会ってまだ三ヶ月ほどしか経っていない自分よりも、よっぽどユノのことに詳しいはずだ。
こうしている間にも泣き喚き続けているユノを宥めるには、彼女以上の適任者はいないだろう。
……と、頭ではわかっていたのだが。

「………」
少しの間、扉の前で佇んでいたリリアだったが、やがて無言のまま扉へと一歩近付き、そっと耳を澄ました。
先の叫び声のような大音量を除き、原則的に室内の音が外へ漏れることはない。
したがって、中で行われている会話を外にいるプレイヤーが聞き取ることは不可能……なのだが、聞き耳《ストレイニング》スキルを鍛えている者に限り、例外的に室内の音声を拾うことが可能となる。
要するに、盗聴だ。

盗み聞き以外の用途では滅多に使われることがなく、習得しているプレイヤー自体が少ない《聞き耳》スキルではあるが、彼はこのスキルを重点的に鍛えている。
ゲーム開始から二人と出会うまでの期間をソロで過ごしてきた彼にとって、最前線のダンジョンでアクティブモンスターに囲まれてしまうということは、死ぬことと同義だった。
なので彼は、死角から迫りくるモンスターの足音や、得物が鳴らす金属音などから敵の存在を察知し、囲まれる危険を少しでも減らすといった立ち回りを心がけていた。
通常、敵の位置を把握するには《索敵》スキルだけで十分なのだが、僅かでも生存率を上げる可能性があるのなら、例え《聞き耳》だろうと鍛えておいて損はない―――と、本人は思っている。

もちろん、彼がこのスキルを鍛えている主な理由は、敵に囲まれる危険を回避するためであって、このような使い方をするのは初めてのことなのだが。

―――別にやましいことはしてねぇ
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