4部分:第四章
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第四章
「それだけ守ってな」
「御願いやで」
「約束してくれる?」
狐のお面の男の子の言葉だった。
「このこと」
「約束?」
「そう、約束」
こう言うのだった。
「約束してくれるかな、このこと」
「うん」
そしてであった。良子もそれに頷くのだった。
「そやったら。約束するわ」
「それやったらええで」
「頼んだで、絶対にやで」
「お母さんの手を握ってるんやで」
狐のお面の男の子だけでなくだ。周りもまた行ってきた。
「しっかりとね」
「あんじょうやで」
こう話してだ。子供達はやがてその手をつないだまま良子の周りを時計回りに回りだした。そうしてそのうえでまたあの歌を歌うのだった。
「通りゃんせ通りゃんせ」
「ここは誰の細道じゃ」
「天神様の細道じゃ」
白く光るその世界の中で歌っていた。良子はその輪の中にいた。
そして気付くとだった。歩道の真ん中にいた。隣に母がいた。
「良子?」
「えっ?」
「どうしたんや」
その母は少し驚いた顔で良子に言ってきていた。
「急に立ち止まって」
「あっ、私別に」
「行くで。ええな」
「うん、そやったら」
母の言葉に頷いてだ。そして。
その手を握ってだ。そのうえで言うのだった。
「いこ」
「うん、行くで」
母もまた良子に対して言う。
「今からな」
「ねえお母さん」
良子はあの白い中で子供達に言われたことを思い出してだ。自分からも握り返してくれた母に対して言うのだった。彼女の方からもだ。
「手やけど」
「手がどないしたん?」
「ずっと持っててええ?」
その母の手を握りながらの言葉である。
「ずっと。ええかな」
「ええよ」
母はそれが当然といったように言葉を返した。
「というか絶対に離したらあかんで」
「離したらあかんの?」
「車にはねられたり悪い人にさらわれたらどないするん」
だからだというのである。
「そやろ。だから離したらあかんで」
「そうやから」
「そうや。絶対に離したらあかんで」
また言う母だった。優しい顔で。
「絶対にな」
「わかったわ。そやったら」
「いこか」
優しい顔のままでの言葉だった。
「今からな」
「うん、じゃあ」
こうしてだった。良子は母の手を持ったまま歩道を渡る。その渡る中でまたあの曲が聴こえた。
「通りゃんせ通りゃんせ」
「ここは誰の細道じゃ」
「天神様の細道じゃ」
この曲を聴きながら歩道を歩くのだった。母の手を握ったまま。今はもうあの男の子も子供達もいない。しかしそれでも彼等の言葉と曲は忘れられなかった。
通りゃんせ 完
2010・5・28
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