流転する生命
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、それが正しいことも理解しているつもりだ。だが、それでも蘇生できる可能性が少しでもあるのなら、試してやりたい。どんな困難な人生が待っているとしても、死ぬよりはましだと俺は思うから。死は絶対の終りだ。そこに救いなどありはしないし、死してなせる事など何もないのだから」
反魂香を用意しながら、徹はその問に答えた。
「主様、それは違います。死ぬよりも辛い事など生にはありふれていますよ。良妻賢母の私が憎き仇に嫁がされ、この身を汚された挙句、せめてもの復讐の果てに傾国の悪女とされたように……。死は時に救いなのです」
チェフェイの言は、凄まじいまでの実感と重みを感じさせた。他ならぬ彼女自身そうであったが故に。
「悠華、俺は……。いや、そうだな。結局、俺は知ったかぶりをしていただけなんだろうな。だが、それでも俺は、この娘に蘇生を試みたい。たとえそれが俺のエゴであっても」
チェフェイに辛苦の生の記憶があるように、徹にもまた死の記憶がある。他ならぬ己自身の前世での死と透夜の人としての死、そのどちらもが彼に蘇生を試さないと言う選択をよしとさせない。偽善と言われればそうだろう、エゴと言われればそうだろう。どんな理由があれ、他人の生死を勝手に決めようとしているのだから。だが、それでも救えるなら救いたいのだ。かつて、己の半身にして己自身でもある弟を救えなかったが故に……。
これが恩人である卜部の娘でなかったら、透夜と同じくいらいの年頃でなかったら、一度救うのをあきらめて、その上で蘇生の可能性が生じなかったたら……いずれの要素のうち一つでもかけていたなら、徹は容赦なく見捨てていただろう。カクエンに遺体が食われることを傍観した後、卜部に間に合わなかったと報告して終わりだったろう。
しかし、現実はそれらをそろえ、どうしようもない衝動を徹に生み出し、行動させたのだ。それは透夜の死によって植えつけられた彼の根底にある『誰も救えない』という念を覆さんとする無意識の反抗であり、同時に透夜を救えなかったことに対する代償行為でもあった。
「主様にこの娘の生を背負えますか?未だ雷鋼の庇護下にある貴方に……」
「無理だろうな。無責任だと思うが、卜部のおっさんに渡して終りだろうよ。未だ未熟者の俺には人を育てるなどできようはずもないからな」
「そこまで理解していながら、エゴを通されるのですか?あまりにも無責任でしょう」
「悪いな、それでもここは俺の我侭を通させてもらう」
話している間も徹の手は澱みなく動いており、蘇生の準備は着々と整っていく。最後に、カクエンが抉り出した心臓を幼子の肉体に再び収め、全ての準備は終わった。
「はあ、意思は難いということですか……。では、ご随意になされるといいでしょう。ただ、お忘れな
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