流転する生命
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ったからだ。引き金に指がかかりかけた時、懐に入った携帯電話が振動する。何をとも思うが、なんというか機先を制されてしまったような感があり、渋々ながら卜部は電話に出た。
「約束の場所に来られたし、依頼に対しては最善を尽くした」
相手はそれだけ淡々と言うと、卜部の返答を待つことなく電話を切った。
「依頼?!……あの小僧か!」
そう、卜部は逃走中に駄目元である依頼をしていた。とはいえ、単なる口約束、しかも本人とはお世辞にも親密とはいえない関係だっただけに、全くといっていいほどに期待していなかったのだが……。
「最善?この状態がか!ふざけるなよ!」
だが、この状態を見せられて、最善とは笑わせるものである。卜部は、今すぐにあの賢しい少年のどたまをぶち抜いてやりたくなった。
「ウラベ様、お待ち下さい。あの方が、意味もなくそのようなことを言うとは思えません。ここにあるのは奥様の御遺体だけです。もしや、お子の方は無事なのではないでしょうか?」
激昂する卜部を落ち着かせるように言うリャナンシー。
「確かにあの子の死体はない。ファントムに浚われたもんだと思っていたが、まさかあの小僧のところにいるのか?!」
「恐らくは……」
「なるほどな。ファントムのやり口にしては、浚うとかどうもまどろこしいと思っていたんだが、そういうことか。最善と言うのも、妻は無理だったが娘は助けたということか……。
だとすれば、こんなところで燻ぶっているわけにはいかん!行くぞ、リャナンシー!」
「承知しました」
妻の遺体を自宅から引っ張り出したシーツで何重にもくるみ、後部座席に安置する。そして、隠してあったありったけの武器道具を車に積む。最後の締めくくりに、虎の子のアギラオストーンを自宅内に放り込み、空中にあるそれを狙撃する。銃弾が突き刺さるとともに爆発的に炎が広がり、一面を火の海にする。雨が振っているとはいえ、内部からならば、この魔性の炎は家を跡形もなく灰燼とするだろう。卜部はかつての幸せに溢れた思い出を一瞬幻視して足を止める……が、すぐにかぶりを振って玄関を閉め、車に乗るまで振り返ることはなかった。
時はしばし戻り、卜部の妻子が襲われたとき、実のところ徹はそこにいた。とはいえ、それは殺されるところをみすみす見逃したというわけではない。彼が卜部の自宅に着いたときこそが、卜部の妻が殺される瞬間であったというだけである。
「(間に合わなかったか……。あれは妖獣カクエンか)」
「(落ち込む必要はありませんよ、主様。あちらも駄目元で出した依頼のようでしたし、そもそもこの事態を招いたのはあの半端者の所業です。自業自得なのですから、主様に何の責任もありません。むしろ、ファントム
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