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第一章
通りゃんせ
「通りゃんせ、通りゃんせ」
大阪の街ではよくこの曲が聴かれる。
「ここは誰の細道じゃ」
「天神様の細道じゃ」
横断歩道を渡る時にいつも聴く。それがいつもだった。
若多雨良子はいつもこの曲を聴いていた。そうしてだ。
手を持っている母にだ。こう尋ねた。
「ねえお母さん」
「どうしたの?」
自分によく似ていると。いつも言う母に問うたのだ。
「何かあったの?」
「この曲だけれど」
青信号を渡りながらの言葉だった。
「何なの?」
「何なのって?」
「何か凄い不思議な曲よね」
母のその顔を見上げて言う。
「とても」
「不思議なの?」
「何かこの世にある曲じゃないみたい」
こう言うのである。
「何か」
「そう思うの?」
「細道を歩いていったら何かね」
そして言うのだった。
「そのまま何処かに行ってしまいそうになるけれど」
「そう思うんやね」
ここでつい関西弁を出してしまった母だった。実は彼女は愛媛の方の生まれなので関西弁はまだ身に着いていないのである。しかしそれでも今は出たのだ。
「良子ちゃんは」
「そやけどちゃう?」
そして良子もだ。関西弁を出して言う。
「それは」
「確かに。何か不思議な曲やけれど」
「その細道を通ったらどうなるんやろ」
このことをまた言う良子だった。
「その時は」
「天神様の細道を通ったらその先には」
「その先には?」
「お母さんにもわからへんわ」
完全に関西弁で言ってしまっていた。
「それは」
「お母さんもわからへんの」
「御免な。それでな」
「それで?」
「今晩何食べる?」
話題を変えた。夕食にだ。
「晩御飯。何がええ?」
「お豆腐がええ」
良子はそれだというのだった。彼女の好物である。
「それとほうれん草」
「その二つでええのん?」
「うん。お豆腐とほうれん草って身体にええんやろ?」
このことも母に対して尋ねる。言葉は何時の間にか完全に関西弁になっていた。それはその通りゃんせの曲を聴いているうちに自然になってしまっていたのだ。元々関西弁で話しているのは大阪だから当然だ。だがそれでもそれ以上にこの曲にはそうさせるものがあった。
「どっちも」
「そやで。じゃあそれにしようか」
「おやつは蜜柑がええけど」
「ええで。じゃあ蜜柑も買おうな」
「うん、晩御飯それで頂戴」
そんな話をしながら青信号の歩道を母に連れられて歩いた。
そしてであった。次の日もその次の日も。歩道はその曲を聴きながら歩いた。そんなある日のことだ。またその曲を聴いて歩いていると。
ふとだ。目の前の信号の向こうに誰かがいた。それは。
昔の子供が来ていた丈
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