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鏡に映るもの
7部分:第七章
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 にこりと笑ったフリッツのその言葉に頷きはする。
「その通りだけれど」
「そういうことです。それでは」
「うん」
 あらためてフリッツの言葉に頷く。
「行こうか。今すぐに」
「お互い酒に強くて助かりましたな」
「ああ、それはね」
 立ち上がり剣を腰に備え付け上からマントを羽織ってからフリッツに答える。
「その通りだな。それだけでも助かったよ」
「その通りです。それでは」
「何処から逃げるんだい?」
「こちらです」
 こう言って指差したのは部屋の窓だった。雨戸に閉められたその窓は見れば中々大きい。ハインリヒでも通り抜けられそうな広さであった。
「あれを通って逃げましょう」
「窓からかい」
「何か?」
「いや、やっぱりね」
 どうにも苦笑いというか困ったような笑いになるハインリヒであった。
「それはどうも」
「お嫌ですか?」
「騎士としてはね」
 騎士道を話に出すハインリヒであった。
「やっぱり。逃げるにしても」
「正々堂々とですか」
「今すぐなのはその通りだよ」
 それについては完全に納得しているハインリヒであった。
「けれどね。それでも」
「逃げる場所ですか」
「あそこじゃなければやっぱり駄目かな」
 あらためて窓を見るのであった。
「どうしても。駄目かな」
「若旦那様」
 主を咎めるわけではなかった。むしろ教え諭すような、そんな顔と声で彼に語るフリッツだった。
「相手は何者かわかったものではありません」
「それはわかるよ」
「人間でないことだけは確かです」
 また言うフリッツだった。
「そんな相手に対してまともに逃げてもいいことはありません」
「そうなるんだね」
「私はそう思います」
 あくまで自分の考えだと前提はする。しかしだった。
「ですが。それしかないと思いますよ」
「窓から逃げるしかない」
「そういうことです。幸いあの大きさだと人間が充分出られます」6
 今度は窓を見る。確かに人が充分通り抜けられる大きさだ。そこから出れば充分だというのだ。少なくともフリッツはそれで決断していた。
「ですから」
「よし、わかったよ」
 そしてここでハインリヒも決断したのだった。その決断は。
「窓を使おう」
「そうされますね?」
「うん。そうも言ってはいられないね」
 このことが一番大きな理由だった。
「相手が人間じゃないんなら。余計に」
「そういうことです。それじゃあ」
「まず荷物を外に出して」
「はい」
 決めたら動きは早かった。決断も行動も素早く、戦場で生き残る為の絶対条件である。ハインリヒもフリッツもこれまで戦場にいたことがあるのでその二つは見事なものだった。

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