第二百四話 箱根八里その七
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「誇り故にじゃったな」
「そのまま一戦も交えず降ったなら」
「例え命を保ってもな」
「腑抜けと。徳川家の者は皆嘲笑されていました」
「天下にな」
「そうなっては武門の誇りなぞありませぬ」
一切、というのだ。榊原もそれがわかっていて言う。
「全く」
「そうじゃ、武士は誇りで依って立っておる」
「だからこそ北条殿も」
「その信玄殿も謙信殿もじゃ」
その二人もだというのだ。
「一戦交えられたのじゃ」
「そうなりますか」
「だからこそ氏康殿もじゃ」
氏康、彼もだというのだ。
「戦われることを選ばれたのじゃ」
「左様ですか」
「それでじゃ」
それ故にというのだ。
「あの方も戦われているのじゃ」
「ですか」
「そうじゃ、氏康殿は戦われ」
「誇りを見せられ」
「織田家だけでなく天下にもな」
「そうしてからですな」
「降られるのじゃ」
そう考えているというのだ、氏康は。
「そういうことじゃ」
「ですか、では」
「箱根は最初から手放してもよかったのじゃ」
そうなるというのだ、そしてだった。
四天王にだ、家康はこう言った。
「ではな」
「はい、我等はですな」
「箱根を目指し」
「そして箱根を抑え」
「東海道を通しますか」
「そうするぞ、よいな」
こう告げて兵達にもだった、確かな声で告げた。
「ではよいな」
「はい、箱根に行きましょうぞ」
「是非」
「うむ、行くぞ」
こう言ってだ、そのうえで。
家康は自身の軍勢を率い箱根に向かった。その道は確かに険しく行くのは辛かった。だがそれでもだった。
徳川の軍勢は何とか先に進んだ、その険しい道の中を。
家康は馬上においてだ、進む兵達に言った。
「よいぞ、このままじゃ」
「はい、先にですな」
「箱根に行くのですな」
「箱根に行けばじゃ」
そこに行けば、というのだ。
「褒美をやる、褒美は梅じゃ」
「梅ですか」
「梅を頂けますか」
「うむ、持ってきておる梅を好きなだけ食わせてやる」
そうするからだというのだ。
「飯も好きなだけ食わせてやるからな」
「おお、それでは」
「箱根に行けばいいのですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「箱根はもうすぐじゃ、そこに行けば梅じゃ」
「梅に飯」
「その二つが」
「味噌もあるぞ」
家康はこれも食わせるというのだ。
「そちらも好きなだけじゃ」
「食ってよいのですな」
「味噌もまた」
「うむ、わしは嘘は言わぬ」
その律儀さも出すのだった。
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