暁 〜小説投稿サイト〜
とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とあるβテスター、慟哭する
[4/10]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


「サチのいたギルド……月夜の黒猫団っていうんだけどさ。いつか攻略組になって、みんなを守れるようになりたかったんだって。ほんと……、僕とは大違いだよね」
誰かを守れるようになりたいと願い、そのために戦い続けてきた彼らは、最期の瞬間、何を思っただろうか。
守ろうとしてきた者に裏切られ、突然仲間を殺されて、今まさに自分も殺されようとしている時に、彼女は―――サチは、何を思ったのだろう。

自分の境遇を嘆いただろうか。
自分を殺した相手への恨みを募らせただろうか。
自分をこんな目に遭わせた運命を呪っただろうか。

いくら考えたところで、答えなんて出るわけがない。当たり前だ、僕はサチではないのだから。
日本には「死人に口なし」なんていう諺があるけれど、この場合、まさにその通りなのだろう。
そして、それは―――黒猫団の面々をPKしたプレイヤーたちも、そう思っているに違いない。

《ユニオン》が悪質プレイヤーへの取り締まりを強化している今、目を付けられるとわかっていて堂々と人を襲うプレイヤーなんていない。
一つのパーティを全滅に追いやったからには、例えPKを行っても、周りにバレることはないという自信があったのだろう。
PKが行われた第29層迷宮区は、トラップ多発地帯だということで知られているダンジョンだ。ポータルトラップを利用して分断したか、結晶無効化エリアに誘い込んだか……。いずれにせよ、目撃者が付かず、かつ自分たちが圧倒的に有利となる方法を取ったのだろう。

目撃者がいなければ、自分たちがオレンジだということを、誰かから《ユニオン》に告げ口されることもない。数日かけて悪行値《カルマ》回復クエストさえこなせば、カーソルをグリーンに戻すことすら可能だ。
自分たちが襲った相手さえ逃がさなければ、何の証拠も残らない。クエストをこなし、カーソルをグリーンに戻した後は、何食わぬ顔でどこかの街に潜伏していることだろう。
実に合理的で―――実に、悪質だ。

「……《投刃》なんて呼ばれてるけど、僕はもう二度と、PKなんてするつもりはなかった。誰かを傷付けるのも、誰かに悪意をぶつけられるのも……、もう嫌だったんだ。……でも」
でも。
それでも、僕は―――

「それでも―――許せないよ。サチを殺した奴らを、許せないよ……! っ、殺して…、やりたいよ……ッ!!」
隣に座るシェイリが、悲しそうな目で僕を見る。
だけど僕は、一たび口をついて溢れ出した感情を、自分でも制御することができなかった。

「悔しいよ……、くやしい、よぉッ……!」
血が出るほどに歯を食いしばり、爪が食い込むほどに拳を握りしめた。

―――悔しかった。
サチを失ってしまったことが。それが誰かの悪意によるものだということが。そいつらを―――この手で殺せな
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ