episode9
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ゃんに会いたいなぁ」
コアラの表情は、少し前までの張り付いた笑顔ではなく、ごく自然な可愛らしいものだった。それほどまでに嬉しいのか...と呟いたアンカーは、次に少女の口から出た言葉に耳を疑った。
「だって、お母ちゃんは“特別”だもん!」
「............は?」
会えることが嬉しいほどの母親が特別。
アンカーなりに言い換えるなら、会えることが嬉しいほどの母親は“カイブツ”。
変だ。
今まで疑いようもしなかった母の教えに、初めてその考えが浮かんだ。
「特別って、どういう意味...?」
「んーとね...。お母ちゃんは“すごく大事”とか“大好きだから”とか言ってた」
「どんな顔で?」
「すっごく優しい顔! 『コアラはお母ちゃんの特別よ』って、言ってくれたの! 私、お母ちゃんのあの顔が大好きっ!!」
違う。...違った。
ワタシの記憶とは、母の教えとはまるで違う。
アンカーは困惑していた。
特別の言葉の意味も、母親の表情もまるで違う。彼女の母は優しい顔なんてしなかった。涙を流しながら鬼の形相で、罵声を浴びせながら拳と共に振り下ろされる言葉の内の1つに過ぎない。
どんなに痛めつけられようとも大好きな母だったが、その時の顔だけは好きにはなれなかった。
だが、少女の言うことが本当なら、母から聞かされていたのはなんだったのだろうか。...嘘? ...偽り?
しかし、アンカーには覚えがある。
今まで見たことのない優しい顔で、自分を特別だと言った者がいる。その時は深く考えず、“特別”だと言われたことによるショックが大き過ぎたために、本人に尋ねる余裕もなかった。
もし、あの時の“特別”がコアラの言う“特別”なら......。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「あ、いやっ! な、なんでもない...」
「でも、顔が真っ赤だよ。熱があるんじゃ」
「少し寝る。お前は外に行ってな」
困惑した様子のコアラを見送って、アンカーは久々に自分のベッドへと体を沈み込ませた。
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