第一部
第六章 〜交州牧篇〜
六十六 〜冀州にて〜
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ばなるまい。
そう考え、請いを受け入れる事とした。
無論、村の様子を念入りに確かめさせ、罠の可能性がない、との報告を受けた上での事だ。
疾風が鍛えた斥候だけあり、その点、抜かりはないと見て良いだろう。
「土方様。御用の最中、ご足労をおかけ致します」
村の長と思しき老人が、慇懃に頭を下げる。
「こちらの袁紹殿にお許しをいただいたまで。詫びるならば袁紹殿に」
「はい。袁紹様、お時間を割いて戴き、恐縮でございます」
「い、いえ。これも、州牧たる務めですわ」
……流石に、以前のような高笑いはせぬな。
老人は頷き、
「さ、どうぞこちらへ」
そのまま、村の大きな一軒家に案内された。
庭も建物も手入れが行き届き、なかなかの佇まいだ。
「ご老人」
「何でございましょうか」
「まだ、名を聞かされていなかったと思うが」
「ほっほっほ、名乗る程の爺ではありませんぞ。形ばかり、この村にて郷三老を務めておりますがな」
何気なく話す老爺。
……やはり、ただ者ではなかったか。
私は、黙って恋を見る。
「……大丈夫。怪しい奴、いない」
まだ、気は許せぬが、ひとまず、老爺の話を聞くとするか。
茶菓が供され、皆が席に着いた。
……恋は、早速菓子に手を伸ばしている。
よもや毒など盛られてはおらぬであろうが。
「……? 兄ぃ、食べない?」
「食べたければ、好きにするがいい」
「……ん」
小動物のように、黙々と菓子を平らげていく。
鈴々や猪々子らのように、もの凄い勢いで、という訳ではない。
不思議と、見ているだけで癒やされるような気がする。
……と、皆がその様子に見とれている事に気付いた。
「な、なんて……」
「ほわ〜ん、となりますね。麗羽様」
「そ、そんな事はありませんわ!……いえ、あ、あろう筈が……」
麗羽と斗誌など、完全に顔が惚けている。
……老爺に至っては、孫娘でも見ているかの如くだが。
「ご老人。恋に見とれるのも良いが、話を聞かせて貰えぬか?」
「お、おお、そうでしたな。いやいや、こちらのお嬢さんについつい見入ってしまいました、はっはっは」
老爺は居住まいを正す。
……麗羽と斗誌は、暫し戻ってきそうにもない。
とりあえず、放っておくとするか。
「まずは土方様。これまでの事に、お礼を申し上げますぞ」
「礼だと?」
「そうです。あなた様ご自身がよくご存じかとは思いますが、土方様がこの魏郡に赴任されるまでは、何もかもが酷い有様でした」
「そうであったな。前の太守といい、官吏らといい。ご老人もさぞ、苦労された事であろう」
「はい。希望も何もない日々でございましたな。女子供は攫われ、男は殺され。残った者は搾られ続けでは」
「……今の暮らし向きはどうか?」
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