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第一章
笛の魔力
そのオペラをはじめて見たのはたまたまだった。本当にたまたまテレビでやっているのをちらりと見た。だがそれがはじまりであった。
「ねえお母さん」
彼はすぐに一緒に部屋にいた母に尋ねた。
「この笛を吹いてる人は誰なの?」
「このテレビの人?」
「うん、その人誰なの?」
「タミーノっていうのよ」
母はこう彼に尋ねた。
「タミーノ王子っていうの。このオペラの主人公よ」
「タミーノ?オペラ?」
「そう、今笛を吹いている人はタミーノっていってね」
さらに問うた彼に対してさらに話すのだった。
「それで今やってるのはオペラっていうお芝居なのよ」
「歌を歌いながらお芝居をするの」
「そうよ、そうするのよ」
息子に対して話す。その間ずっと画面を見ている。実は彼女もそのオペラを観ているのである。観ながら我が子に話しているのである。
「歌いながらお芝居をね」
「何か凄いね」
「そうでしょ、面白いのよ」
母はオペラが好きだった。それを窺わせる言葉だった。
「それでこのオペラの名前はね」
「何ていうの?」
「魔笛っていうのよ」
そのタイトルも教えた。ただ息子にわかりやすいように名前と表現したのだった。
「これがこのオペラの名前なのよ」
「魔笛っていうんだ」
「そう、モーツァルトって人が作ったのよ」
「モーツァルトって人が」
「とてもいいでしょ」
また言う母だった。
「このお芝居も歌も」
「何かとても不思議だね」
芝居の内容や歌、それに音楽を聴いてみての言葉である。実際にそう思った彼である。
「何でこんなに不思議なんだろう」
「そうね。とても不思議よね」
そのことについては母は答えなかった。答えられなかったと言うべきか。何故この魔笛という作品がここまで不思議な雰囲気を醸し出しているかは彼女も口に出して言えなかったのである。感覚としては何となくわかっていても言葉として出すのは難しかったのだ。
「これって」
「不思議だけれどいい音楽」
また言う彼だった。
「ずっと聴いていたい」
「そう思うのね」
「うん」
また答える男の子だった。
「ずっと。いいかな」
「いいわよ」
母は微笑んで我が子のその言葉を受けた。
「若しずっと聴きたいのならね」
「どうすればいいの?」
「笛が上手くなればいいわ」
そうするといいというのである。
「聴きたいのならね」
「笛をなんだ」
「そう、笛をね」
また言われた。
「わかったわね」
「うん、それじゃあ」
これがはじまりだった。この少年、フリッツはそのまま母の言葉に誘われて笛をはじめたのであった。しかしこれが思わぬことになっていった。
笛が上手かったのであ
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