5部分:第五章
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第五章
「とても」
「左様ですか」
「そうです。では貴女は」
「はい、私は」
「お先にお戻り下さい」
こう言ってきたのである。
「私達でしますので」
「では私は」
夫人は二人の言葉を聞いて述べた。
「このまま」
「いえ、それでもです」
こちら側の伯爵がここで彼女に言ってきた。
「奥様、私の手に」
「掴まれというのですね」
「私は私だけでこの世界から出られます」
彼はそれでいけるというのである。
「ですが奥様はです」
「そうですか。それで」
「はい、お掴まり下さい」
また言う彼だった。
「それで御願いします」
「わかりました。それでは」
「はい」
こうしてであった。夫人は自分のいる世界の伯爵の手を掴んだ。伯爵はそのうえで一旦鏡の世界を出た。また水面を越える様に出た。
それからであった。伯爵は鏡に身体を向けなおした。向こう側には鏡の世界の彼がいる。夫人の目にはまさに鏡合わせに映った。
その二人がそれぞれ右手を出す。そのうえで鏡面に触れ合う。手と手が合さりそのうえで。鏡の向こうの彼は一見すると何も変わってはいなかった。
しかしであった。ここで伯爵は言うのであった。
「これでよしです」
「これで、なのですか」
「はい、御覧下さい」
こう言うとであった。彼は鏡の前から離れた。するとそれと共に彼の姿は鏡から消えた。夫人も確かにその光景を目にした。
「これでおわかりですね」
「そうですか。元に戻ったのですね」
「そうです。元に戻りました」
まさしくそうなのだというのだ。
「これで完全に」
「夢の様な話ですね」
「ですが本当にあったことです」
伯爵はこう夫人に言うのであった。
「それはおわかりですね」
「はい、あちらの世界に行きましたし」
「そうです。その通りなのです」
また言う彼だった。
「しかしこれで元に戻りました」
「左様ですか」
「そしてです」
「そして?」
夫人は伯爵の言葉が変わったのを感じ取った。そのうえで彼に問い返した。
「何かあるのですか?まだ」
「あります。まずはこれで二つの世界の境目はまたはっきりしたものになりましたが」
「はい」
「こうしたことはままにしてあるものなのです」
そうなのだというのだ。
「それぞれの世界の境目があやふやになることはです」
「あるのですね」
「そうです、あります」
夫人に話を続けてきた。
「ですから。よく覚えておいて下さい」
「左様ですか。我々の世界とは別の世界との境が」
「それが時としてこうしたことにもなります」
鏡の世界の人間が見えるそのことがだ。
「時には怪しげな世界もありそこから怪しい存在が来ることもあります」
「悪魔・・・・・・」
夫人はすぐにそうし
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