第二話
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中もまた、昔と変わらずそのままだった。そのためか、大崎はここへ彼女…直美と来ていたあの頃を思い出し、少し胸の奥がチクリとした。
「若いのは珈琲が良いかねぇ。」
「いや、何でも良いですよ。」
大崎が苦笑混じりにそう返すや、竹子は何かを思い付いたように裏へと向かった。
「…?」
大崎は何事かと見ていると、竹子はその手に白ワインを持って戻って来たため、大崎は些か面食らった。
「ちょ…竹子さん?」
「どうせ歩きだろ?あんただったら、こんなんじゃ酔いもせんだろうしねぇ。これ、姪っこが嫁いだ先で造ってるもんなんだよ。試してやっとくれよ。」
「へぇ…。」
そう呟いて大崎は注がれたワインを見た。コップに注がれたそれは美しい程に澄んでいて、芳醇な香りが広がっていた。
「それじゃ…頂かせてもらいます。」
「そうしとくれ。さて、私も一杯頂くかねぇ。」
そうして二人はコップを傾けるや、二人とも目を見開いた。
「これ…凄く美味いですね。」
「ほんと…こりゃ上等だね。」
そう言って二人はまたコップを傾け、その合間に他愛ない話を肴にした。
大崎はそんな他愛ない話をするうち、十年もこの町に居なかったことを実感した。そして、楽しかったあの日々を冷静に思い返すことが出来た。
彼は今まで、そんなことは一度もなかった。辛い思い出が先行し、とても思い出す気にもならなかった。
だから…大崎はそれを口に出した。いや、しなくてはならなかったと思ったのだ。
「直美…ここに来るの好きでしたね。」
「…そうだねぇ。直ちゃん、いつもあんたにくっついて…。私らはさ、そんな杉ちゃん達をよく冷やかしたもんさね。直ちゃんは幸せもんさね。」
「幸せ…ですか?」
大崎は不思議に思った。自分が運転する車で事故に遇い、彼女は死んだのだ。それを幸せなぞと呼べるのか…。
竹子は大崎の思いに気付いてか、過去を振り返りながら静かに口を開いた。
「杉ちゃん。確かに、直ちゃんは死んじまったよ。だけど忘れちゃならないよ?直ちゃん、杉ちゃんと一緒の時が一番楽しそうで…幸せそうだったんだよ。それに、あんた未だ女の人居ないんじゃないかい?」
「ええ…作る気にはなれないっつぅか…。」
「今でも直ちゃんのこと好きなんだね?」
「はい。」
竹子はその言葉に笑みを溢し、再びコップを傾けてから返した。
「そんじゃ、直ちゃんは幸せもんさね。想った男が忘れることなく覚えていてくれる…そんだけで万々歳ってもんさ。だからね…」
ここで竹子は言葉を切り、大崎の目を見て言った。
「もう、自分を許しておやり。」
その一言で大崎の目から涙が溢れた。
それは、彼が過去の呪縛から解き放たれた瞬間であった。
彼は…大崎は直美の死をずっと自分のせいだと考えて苦しみ続けていた。誰かに「
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