第二話
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夜がそう呟いたかと思った時、彼の姿もまた夜の闇に溶けたのだった。
翌日、大崎が目を覚ますと、既に八時を回っていた。
「やっぱり雄の奴…帰ってねぇな。」
隣に敷かれた布団には、人が眠った形跡は無い。
大崎は布団から出て着替えを済ませると、そのまま一階へと下りた。
台所には朝食が用意されており、それと一緒に書き置きがあった。それは孝と瑶子から二人に宛ててのものだった。
瑶子は「今日も来るから、ちゃんと居るように!」と書かれていて、大崎は思わず苦笑した。孝からは「ゆっくりしてろ。」とだけある。しかし、充分思いの伝わるものだった。そして近くには家の鍵まで置いてあった。
「相変わらず…か。」
大崎はそう呟いて少し淋しげな笑みを溢し、鍵をポケットに入れて朝食を食べたのだった。
目の前にはもう一人分あるが、大崎は朝食を食べ終えた後でそれを冷蔵庫へと入れた。
「ま、昼までに戻らなけりゃ、俺の昼飯にすりゃいいか…。」
そう一人呟くと、そのまま二階へと戻った。そしてケータイを取り出して見ると、釘宮と小野田からメールが入っていた。
大崎は何かあったかとメールを開くと、二人とも同じことを書いていたのだった。
「お土産宜しくって…。」
大崎は深い溜め息を吐いた。
「ってか…ここの土産ねぇ…。」
ここは単なる田舎町だ。これといって有名なものはなく、必然的に土産と称せるものなど一つもないのだ。まさか港で魚を…と言う訳にはいかない。
しかし、大崎はそう考えて閃いた。
「そっか、送っとけば良いのか。」
そう言うや早いか、彼は支度を整えて直ぐに港へと向かったのだった。
彼には良い気晴らしだろう。快晴の青空の下、何を送ろうかと考えるのは楽しいものだ。
確かに、司や彼を取り巻く環境など気にすれば切りがないが、ここでそれを考えても埒が明かないのだ。
大崎が潮風と緑の中をニ十分程歩くと、小さいながら活気のある漁港へと着いた。この港へ来るのも、勿論ながら十年振りだ。
ここには市場だけでなく幾つか食堂などの店もあるが、それらも変わらず賑わっていた。
「ありゃまぁ、杉ちゃんじゃないかい?」
ふと見ると、食堂から六十代後半の女性が顔を出していた。
「竹子さん!お久し振りです!」
「まぁまぁ、立派んなって。今どこ居んね。」
「埼玉ですよ。」
大崎はそう言って苦笑した。
この竹子はシズの姉であるマツヱの娘で、姉妹して未だ現役で働いている。家計が苦しい訳でなく、これが生き甲斐なのだ。
「杉ちゃん、良いとこ見付かったかい?」
「いやぁ、働いてはいますがパートで…。」
「いやいや、こんなご時世だし、働けるだけめっけもんさね。ほれ、入ってお茶でも飲んでけて。」
そう言われるがまま、大崎は店の中へと入った。
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