暁 〜小説投稿サイト〜
メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第二話
I
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
もせずに勝手に裏口から帰らせたのだから、給料天引きに説教は当たり前だ。
 しかし、そんな大崎に釘宮は微笑んで返した。
「気にすんな。事務所貸すって言った時、もう金取る気なんか無かったんだよ。お前の知り合いで、悩みがあって訪ねて来たんだろ?」
「そりゃ・・・そうなんですけど・・・。」
「そんな小さいこと気にしてないで、さっさと仕事しろよ。」
 そう言われた大崎は、釘宮に「はい。」と言って仕事に戻ったのだった。
 仕事に戻った大崎を見つつ、やはり釘宮は気になっていた。
 あの席に座ったのは・・・本当に偶然だったのか?いや・・・男一人がふらっと入って来て座るような席じゃない。
「何もなければ良いんだが・・・。」
 そう一人呟くと、釘宮は不安を掻き消す様に仕事へと集中したのだった。

 一方その頃。
「雄君・・・あの声・・・。」
「あぁ・・・直ちゃんの兄さんだ・・・。」
 ここは店の裏。そこに今、鈴野夜とメフィストの姿があった。
 今日は早く仕事が終わり、二人は出掛けていた。が、部屋へ戻ろうと帰って来た時、事務所の少し開けられた窓から声が聞こえた。
 そこから聞こえてきた声は大崎と・・・昔聞いたことのある懐かしい声・・・。
 二人は悪いと思いつつも気になり、生け垣に隠れてそれを聞いていた。
 だが、二人は話を聞いているうち、ふと思った。

―何故・・・ここに大崎がいることを知っている?―

 大崎は天涯孤独だ。彼には家族も親戚もいない。
 この<喫茶バロック>で働き始めた時、彼は友人すらいなかった。以前働いていた町も県を幾つかまたいでいるため、尚更行方など掴めようもない。
 いや・・・彼は誰にも行方を知られまいと各地を転々としていたのだから、探偵ですらお手上げの筈なのだ。
 大崎は懐かしさが先にたって不思議に思わなかったようだが、鈴野夜らはそれが引っ掛かってならなかった。
 鈴野夜は暫く考えた後、決めたとばかりにメフィストへと言った。
「大崎と一緒に行くことにするよ。」
「はぁ!?雄君、まさか盗み聞きしたのバラしちゃうの?」
「違うよ。大崎の向かう場所は私達にも分かるじゃないか。こっちから先に誘うんだよ。あそこは海辺の町だし、久しぶりに行きたくなったと言えば偶然と思うだろ?」
 そう言った鈴野夜に、メフィストはあからさまにバカにするような顔をして返した。
「そんなの直ぐバレるって。」
「バレたらその時はその時だ。お前だって心配なんだろ?」
「・・・そりゃまぁ・・・。」
 メフィストは後ろ頭を掻きながら呟く。
 だが、鈴野夜の次の言葉で目を丸くすることになった。
「それじゃ、留守番頼んだよ。」
「・・・はい?」
 メフィストはキョトンと鈴野夜を見た。そんなメフィストに、鈴野夜は説明した。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ