第二話
I
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早いんじゃないか?」
釘宮は首を傾げてそう問うと、大崎は苦情しつつ返した。
「用があって早く出たら時間余ったんですよ。直ぐ着替えてきます。」
そう言うが早いか、大崎は釘宮が何か言おうとしたにも関わらずドアを閉めて行ってしまったのだった。
「やれやれ・・・若いねぇ。」
釘宮はそう言って厨房へ入り、ディナーの仕込みの用意をしてから洗い場へ入った。仕込みを大崎に任せようと思ったのだ。
だが、洗い始めた途端にあの男性から再び呼ばれたため、釘宮は手を拭いてカウンターから出た。追加オーダーのようだ。
男性は釘宮が来ると、直ぐに追加オーダーをした。再びミルフィーユだったが、ドリンクはアイスコーヒーだった。
釘宮が厨房へ戻ると、大崎は既に仕込みを始めていた。伊達に長く働いている訳ではない。
「オーダーっすか?」
「ああ、君は仕込み続けて。大したことないから。」
手伝おうとした大崎を制し、釘宮はオーダーを作り始めた。
先ずは生地を出してオーブンに入れ、それから珈琲豆を挽いた。すると、厨房内に薫りが広がり、何とも言えない幸福感に満たされた。
「オーナー。やっぱりこの薫り良いっすね・・・。」
「だろ?焙煎も友人のとこでやってもらってるが、今まで外れたことがないからな。」
そう言うと、釘宮は挽き終えた豆を珈琲メーカーにセットした。
「てか・・・この豆をそれで落とすのも何ですよね・・・。」
「まぁな。だが、アイスコーヒーはこれじゃないとな。油分が出過ぎると不味い。」
釘宮はそう言いながらパイ生地の焼き加減を見に行き、頃合いと判断してオーブンから取り出した。新しくなったオーブンは、どうやら使いやすい様だ。
「そう言えば、雄ちゃん達って買い物でしたっけ?」
「そうだ。ヴァイオリンの弦が欲しいって言ってたが・・・正直、ここで弾かないでほしい・・・。」
「そうすっね・・・近所迷惑になるし・・・。」、
そんな話をしながらも、二人の手は的確に動いていた。
さて、釘宮はオーダーを作り終えてトレーに乗せた時、不意に事務所の電話が鳴ったため、釘宮は大崎にオーダーを持って行くように言って事務所へと入った。まぁ、客は一人しか居ないため間違うことはないが。
大崎は直ぐにそれを男性へと運んだが、その席まで来て危うくトレーを落としそうになった。
「真一・・・さん?」
「やぁ、杉人君・・・。」
どうやら顔見知りのようだ。
だが、大崎の表情からは、単なる知人・・・ではないと言うことが窺えた。
「本当、久しぶりだね。直美の葬儀以来・・・かな。」
男性・・・真一は少し悲しげな笑みを見せて言った。大崎は些か戸惑いつつも、オーダーをテーブルに置いてから返した。
「そう・・・ですね。もしかして、俺に何か用があって来たんですか?」
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