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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第二話
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 彼は瀕死の状態だった。
 何故そうなったのか?薄れ行く意識の中で、彼はそれまでの出来事を考えた。
「直美・・・。」
 彼はそう呟いた。いや、声にすらなってはいなかった。彼の肺は潰れており、口からは真っ赤な泡を吹いているに過ぎないのだ。声など出せようもない。
 後は死を待つだけ。彼は掠れた意識の只中で、生を諦めて手放そうとしていた。
 だがその時、近くで誰かの叫び声が聞こえた。
「・・・!・・・か!?」
 誰かは分からない。既に聴力も失われつつあり、視力もまた同様だったのだ。
「・・・なよ!・・・が・・・やる!」
 彼はその声を煩わしく感じた。自分は疲れているのだから、ゆっくり眠らせてほしい・・・そう考えたのだった。もはや判断力もなくなっていたのだ。
「・・・助ける!」
 助ける?いったい誰を?
 彼はふと思い出した。

―ああ、そうか。俺は・・・俺達は事故に遭ったんだ・・・。―

 その日、彼は彼女と友人二人の四人でドライブに出ていた。
 雨上がりの青空が輝く午後。隣には彼女の直美が乗り、後ろには気の知れた友人二人。
 楽しい筈だった。思い出の一頁を飾る筈だった・・・。
 だが・・・とある峠に差し掛かった時、それは待ち構えていたかのように起こった。彼の運転する乗用車を落石・・・いや、地滑りが直撃したのだ。

―そうか・・・死ぬんだ・・・。ああ・・・直美、ゴメン・・・。―

 彼はそう思った時、もう彼の体は限界に達していた。もう・・・死ぬのだ。
「死ぬな!」
 彼はその声に救い上げられた。死の淵を彷徨う彼の精神を、その声が強制的に引き戻したのだ。
 彼は・・・その声を知っている。いや、その声の主は一番の親友ではないか。
 しかし、なぜ親友は平気なのかと考えた。だが、その答えなどだせる状態ではないのだ。
「私と契約するんだ!」
「誰・・・?」
 不意に話し掛ける人物に何か得体の知れない力を感じ、彼は戸惑ってその声に問った。これは親友ではない・・・そう思ったのだ。
「私はロレ。ミヒャエル・クリストフ・ロレだ。私は君を死なせたくはない。」
 男はそう名乗ったが、彼は直ぐに気付いた。

―あぁ・・・やっぱりあいつだ・・・。―




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