3部分:第三章
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第三章
「彼女はこの中にいます」
「左様ですか」
二人はその鏡の前にいた。夫人はその鏡に怪訝な顔になっている自分自身を見た。その横にいる伯爵は至って落ち着いたものである。
「ほら、御覧なさい」
伯爵が言うとであった。
「美女がもういますよ」
「えっ!?」
その言葉に驚くとであった。確かにそこに美女がいた。栗色の豊かな髪に青い目をした美女である。服は彼女達と同じ絹の白い豪奢なドレスである。
「この方ですね」
「あの、この女性は一体」
「住人です」
まずはこう答える伯爵だった。
「しかしです」
「しかし?」
「私達の世界の住人ではありません」
それは違うというのである。
「あちらの世界の住人なのです」
「魔界でしょうか」
「魔界ではありません」
それは否定するのであった。
「鏡の世界です」
「鏡の世界なのですか」
「はい、どうやらこの人は」
伯爵はその美女を見ながら夫人に話していく。
「たまたま私達、こちらの世界が見えるようですね」
「私達の世界が」
「ここはなおさなくてはなりません」
伯爵は冷静な面持ちでまた夫人に話した。
「では。中に入りますか」
「中にといいますと」
「ですから鏡の中にです」
そこだというのである。
「鏡の中にこれから入りましょう」
「あの、簡単に申されますが」
夫人は伯爵の言葉が現実のものには思えなかった。それでいぶかしむ顔になってだ。そのうえで彼に対して言葉を返したのだった。
「鏡の中ですよね」
「はい、そうです」
「入られますか?その様な場所に」
「ええ、見て下さい」
伯爵は夫人の今の言葉に応えるとだった。うっすらと笑ってそのうえで右手を前にやってだ。鏡に当てた。するとそれだけで、であった。
「えっ!?」
「こうしたこともできますので」
何とその手が鏡の中に入っていく。まるで水面の中に手を入れるかの様にだ。手と鏡の接点がまさに水の中に入ったかの様に入り込んでいる。それが徐々に深くなっていく。
そのまま身体をさらに入れながらだ。夫人に対しても言ってきた。
「奥様も」
「私もですか」
「はい、私の手に掴まって」
まだ鏡の中に入っていない左手を差し出しての言葉だった。
「どうぞ」
「鏡の中に」
「そうです。どうぞ」
また言うのであった。
「私の手に掴まって」
「それでは」
今見ている光景が現実のものとは思えない。しかし夫人は伯爵の言葉に従いそのまま自分の左手を差し出した。そのうえで彼女も鏡の中に入るのだった。
まさに水面を越える感じだった。だがそれでも濡れはしない。通り抜ける感じだった。そのうえで鏡の中に入るとであった。
そこは宮殿であった。ベルサイユ宮殿の鏡の間だ。彼等がつい先程までい
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