五十二話:子供の好きな物
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男の朝は早い。日がのぼり始めると同時に目覚め、朝食前に鍛練を行う。まるで剣舞のように美しい素振りをし、それが終わると剣からハンマーに持ち替え今度は力強い素振りをする。男の獲物は全部で三種類ではあるが早朝という時間も考え、大きな音の鳴る銃は手入れをするだけに止める。
鍛練を終えた男は軽く汗を流すためにシャワーを浴び、身だしなみを整える。そして、ふと鏡に映る自分の顔を見て顔をしかめる。以前であれば鏡を叩き割りたくなる衝動に駆られていたが今は大分抑えが効くようになっている。だが、鏡を見るたびに自分が自分でないような感覚に落ちるのは気持ちのいいものではない。
男は軽くため息を吐き鏡から目を逸らし置いてあった仮面を着ける。そして、昨晩仕込んでおいた料理の様子を確かめようとしたところで、自分の後ろに小さな気配を感じて仮面の下に柔らかな笑みを浮かべる。
「おはよう、オーフィス」
「おはよう……ヴィクトル、我お腹空いた」
「ふふ……待っていなさい。すぐにスープができるよ」
「我、楽しみ」
男、ヴィクトルは微笑みながら少女オーフィスの頭を優しく撫でる。そんなヴィクトルをオーフィスはキョトンとした顔で見つめる。少女のそんな様子に彼はますます笑みを深めて撫でる。そして、しばらくなで続けて満足したのか朝食の準備をしにキッチンへと消えていく。
オーフィスもちょこんとリビングの椅子に座り、朝食が来るのを今か今かとソワソワしながら待ち構えている。ヴィクトルはそんな様子をキッチンから眺めながら、なぜ、この様に二人で暮らすようになったのかを思い出す。初めは少女に何の興味も持っていなかった。
ただ、孤独なその姿に“エル”を見いだしてしまった。だから、つい“エル”の代わりに世話をやいてしまった。ただ、それだけだった。しかし、一度なつかれてしまうと、切り離すことが出来なかった。そのため、生活を共にするということになってしまったのだ。
だが、なつかれて悪い気はしない。それに利用できるものは全て利用すればいい。どうせ、このつかの間の幸せも偽物なのだから。ヴィクトルはそう結論付けオーフィスから目を反らす。その目が何を写しているかは彼にもわからない。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま……我、満足」
「そうか、それは良かった」
分かりづらくはあるが確かに満足気な顔をしたオーフィスに微笑みながらヴィクトルは彼女の口の回りについた汚れをぬぐってやる。それに対して不思議そうに彼女は彼を見るがやがて何をされたのかを理解して、ありがとう、と彼にお礼を言う。彼はそんな言葉に一瞬、影を見せるがすぐにそれを隠して微笑みを返す。
「オーフィス、こっちに来なさい。髪を梳かそう」
「わかった」
トテトテと
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