暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第114話 魔球?
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自称リチャードくんは既にホームベースを駆け抜けるか、もしくは三本間の何処かに居た事が推測出来る。
 それに、あの打球の勢いから考えるとセンターが追い付くのは表の世界に存在する人間では無理。例えメジャーリーガー最強のセンターが居たとしても不可能でしょう。そう考えるとタッチアップを想定した動きよりはある程度のスピードでより先に進んで置くのは間違いではない。

 そして、ここで問題なのは審判の内、三塁塁審以外はすべて敵と考えて間違いない状態。例え俺がセカンドベース上でセンターからの送球を受け取った時にサードランナーがホームベースを駆け抜けて居なかったとしても、駆け抜けて居たと言い張って九組の得点を認める可能性が有った、と言う事。
 このルール上の盲点。四アウトと言うのはアピールプレイ。守備側がサードランナーのリタッチが早すぎたとアピールを行って三塁にボールを送らない限り、九組に得点が加えられるシステムと成っています。

 流石にそんなクダラナイ理由でこれ以上、点差を広げられる訳には行きませんから。

「三対十と三対十一。確かに一点しか差がないけど、こう言う失点は士気を下げる可能性が高いから防がなけりゃアカンのや」

 それに、逆に言うとこう言う大ピンチを神がかった奇跡のような方法で切り抜けると、その先にはコチラに流れが来る可能性が高いのも事実。

 最後まで話し終わった俺。そして、胸の前に腕を組んだ状態で仁王立ち。上から目線で俺を見つめているハルヒに対して、

「ほら、期待出来ない八番が三振に倒れたから、ネクストバッターズサークルに行って来い、ハルヒ」

 立て掛けて居たバットを差し出す俺。……と言うか、俺が椅子に座った後に預けるようにして彼女が置いて来たので、最初から俺に打席に向かう前に渡してくれ、そう言う心算でこちらに預けてあったのでしょう。
 そう。先ほどのルール上の盲点の説明の最中に、矢鱈と自分の好調振りをアピールしていた八番バッターが、かなり大きなスイングで三振を喫したのだ。

 この感じで行くと九番バッターのカニも期待は薄。少なくとも、彼の野球の実力が高校球児レベルに到達していなければ、九組のエースの投じる変化球には手も足も出ないでしょう。
 この進学校の生徒で、そのレベルにまで到達していたのなら、その男子生徒は迷う事なく野球部に入部しているはずなので、球技大会の野球にエントリーはしていないはずです。

「ねぇ」

 俺が差し出したバットを手に、カニが去ったネクストバッターズサークルに向かって二歩進み出したハルヒがふと何かを思い出したかのように立ち止まり――

「この試合、絶対に勝つわよ」

 振り返って俺の瞳を覗き込んだ。
 その時の彼女の瞳に浮かんでいた物は不安……それとも悔恨か?


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