4部分:第四章
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第四章
「私は絵を描いているうちにそれが出来る様になったのです」
「そうだったのか、それで」
「絵に目を入れないようにするようになりました」
「わかった」
そこまで聞いてだ。皇帝は納得した顔で頷いた。
「そういうことだったのだな」
「申し訳ありません。宮廷が」
「なおせばよい」
そのことについては皇帝は実に素っ気無かった。
「天井なぞどうとでもなる」
「ですな。ではすぐに人を集め」
「なおさせるとしよう」
司馬光にも言う。大きく開いた天井から青い空が見える。そしてその青い空にだ。五匹の龍達が舞っていた。それも実によく見えていた。
その龍達を見上げながらだ。皇帝は張にまた言った。
「ではじゃ」
「はい、それでは」
「謝礼を取らす」
話はそのことになった。
「絵の謝礼はな」
「有り難うございます。それでは」
「銀に何でもやろう」
一つではないというのだ。
「御主の望むものをな」
「少なくとも死ぬまで食うには困らぬものだ」
司馬光も微笑み張に話す。
「それが御主に与えられる」
「そしてじゃ」
まただ。皇帝は張に言ってきたのだった。
「済まないことをしたな」
「あの、それは」
「朕は愚かだった。目には心がある」
張に謝ってからだ。このことを言ったのである。
「そして絵であってもその心を宿らせれば」
「ああなるというのですね」
「そのことがわかった」
こう皇帝はだ。張に話すのだった。
「あらためてな。だからこれからはじゃ」
どうかというのだ。
「もうこのことは言わぬ。それではな」
「はい、それでは」
「御主はこれからも絵を描くことじゃ」
それは存分にしていいというのだ。
「だが。もう目を入れよとは言わぬ」
「それはでございますか」
「うむ、言わぬ」
それは絶対だと言う皇帝だった。
「安心せよ」
「それでは」
こうした話をしてだった。張は以後皇帝から絵を描くことを許された。しかしその目を入れることは二度となった。彼の絵は長い歴史の中に多くが失われた。だがそれでもだ。時折それを見掛けることがあるという。彼の絵かどうかはわからないが目が入れられていない絵を。
画龍 完
2011・10・30
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