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画龍
2部分:第二章
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第二章

 だからだ。こう言ったのである。
「私は別にそのことは」
「気にはしておらぬか」
「ただ描くだけでございます」
 にこりと笑ってだ。皇帝に答えたのである。
「それだけでございます」
「ではじゃ。朕が描けと言えば」
「描かせてもらいます」
 笑みはそのままだった。
「さすればですな」
「うむ、では描いてもらおう」
 こうしてだった。話は決まりだ。彼は皇帝の命じるままに言われた絵を描きはじめた。それは彼が街でいつもしていることと同じだった。
 皇帝の肖像画に虎や鳳凰の絵も描いていく。どの絵も皇帝が満足するものだった。しかしだ。
 やはりどの絵にも目は描かれていない。最後の一点だけはだ。それを見てだ。
 皇帝はだ。聞いていたとはいえいぶかしむ顔でだ。張に対して言った。
「目は描かぬのじゃな」
「はい、それは」
「朕の絵もではないか」
「そうさせてもらいました」
「他の動物達もじゃな」
 とにかくだ。どの絵にも目は描いていなかった。120
「目だけはないのう」
「目を入れますと」
「命が入るというのじゃな」
「はい、ですから」
 描かないとだ。張も答える。
「万歳爺の目を描かないのは無礼ですが」
「描いてもらえぬか」
 皇帝は眉を顰めさせて張に言った。
「せめて朕のものと。それに」
「それに?」
「龍達の絵じゃ」
 次に挙げるのはこの絵だった。五匹の、それぞれの方角や司るものを象徴する青、赤、白、黒、黄の龍達も描かせたのである。その龍達もだ。
 目がない。その絵にもだというのだ。
「それにも入れてくれるか」
「龍達にもですか」
「そうしてくれるか」
「目を入れるとです」
 張は困惑した顔で皇帝に応えてきた。
「何が起こっても宜しいでしょうか」
「よい」
 皇帝は微笑みはっきりと答えた。
「礼も弾む。また何があってもそなたを責めぬ」
「左様ですか」
「皇帝に二言はない」
 その誇りを以てだ。皇帝は言い切った。
「だからだ。目を入れてくれるか」
「ですが万歳爺、これはです」
 司馬光がだった。怪訝な顔で皇帝に言ってきた。
「どうも何かある様です」
「怪異が起こるとでもいうのか」
「恐れながら」
 司馬光は儒学に深い。これはこの時代の政治に携わる者、中国のそれならば当然だった。科挙がありそこで儒学を徹底的に学ぶからだ。
 儒学は怪力乱神を語らずだ。本来は儒学を知る者なら怪異を言わない。しかし彼はここでは怪訝なものを感じ取りだ。皇帝に言ったのである。
「ここは道士なり兵達を呼ぶなりして」
「その心配もなかろう」
 しかし皇帝は平然としてだ。司馬光に述べるのだった。
「道士も兵達も既に宮中に多くいる」
「では何かあれば」
「呼べばいい」 
 
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