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画龍
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第一章

                          画龍
 中国宋代の話だ。宋の都開封に一人の絵描きがいた。
 その名を張清七という。町で人の顔や描く様に頼まれた動物を描いてそれで生計を立てている。開封では上手いということでかなり有名な絵描きだ。
 彼はいつも町に出店を出して敷きものの上で座ってそのうえで客に応えていた。とにかくどんな者の顔も描けるし動物も同じだ。しかしだった。
 客の一人がだ。鳩を描いてもらってその見事な鳩の絵を見てこう彼に尋ねた。
「あのさ。一ついいかな」
「はい、何でしょうか」
 見れば飄々とした感じの痩せた男だ。髭は薄い。浅黒い顔には皺がありそれが年齢を物語っていた。服は描くせいかあちこちに絵の具の後があり汚れている。
 その彼がだ。その客の言葉に応えたのである。
「何かありますか?」
「いや、見事な鳩を描いてもらったけれど」
 客は張にまずはこう言ったのである。
「それでもどうして目が」
「そのことですね」
 描く方もわかっているという返答だった。
「実はですね。目を入れるとね」
「何かあるのかい?」
「命が宿りますので」
 こう客に言うのである。
「それでなのです」
「目は入れないっていうのかい」
「はい」
 張は人懐っこい笑顔でその客に話す。
「左様でございます」
「ううむ、そう言うのかい」
「左様です。おわかりになられたでしょうか」
「目が入っていないのは残念だけれど」
 あるべき黒い点がなかった。目のそこだけが描かれていないのだ。
 それでもだ。全体としてよくだ。その客は納得した顔で張に言った。
「これでいいよ」
「宜しいですね」
「いい絵だからね」
 それでだ。いいというのだ。
「これでいいよ。じゃあ銀を」
「有り難うございます」
 銀で代金が支払われてだ。客は絵を手に取り満足した顔で帰った。張の絵はその見事さと目を入れないことが開封で話題になった。そしてそのことはだ。
 皇帝の耳にも入った。当時の皇帝は神宗である。
 皇帝はそれをだ。重臣である司馬光に聞いてだ。興味を抱きこう言ったのだった。
「ふむ。ではその張清七をだ」
「宮廷に呼ばれますか」
「うむ、そうしようと思うのだが」
 皇帝は玉座から司馬光に話す。皇帝のものらしくその玉座は立派なものだ。そして皇帝の黄色く龍が描かれた服を着てだ。彼は重厚に言ったのである。
「どうであろうか」
「それはよいことです」
 すぐにだ。司馬光は微笑み皇帝に答えた。
「では張という者を呼びですね」
「描いてもらうとしよう。しかしじゃ」
「あのことですか」
「目を描かぬのか」
 皇帝は首を捻りだ。聞いたこのことについて述べたのである。
「俗に聞くがな。目を描けばそれで」

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