前編
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過ぎるわ。もっと楽に構えないと」
そう言って、ピリカレラは再び歩き始めた。握った鉈でツタを切り払いながら歩みを進める。ルーヴェンは黙ってその後に続いた。彼女の言う通り、もう少し緊張を解した方が良いと思ったからだ。卒業がかかっていること、そして人間の命を奪った竜への怒りで気が逸っていた。
師に言われたように、ハンターは誠実で謙虚でなくてはならないとルーヴェンも分かっている。そう言うとハンターは人格者ばかりなのかという話になるだろうが、そのような意味ではない。少なくとも一瞬の油断が命取りとなる狩り場では奢りや名誉欲を廃し、感覚を研ぎすませねば生き残れないのだ。逆に気を張り続けていては目に見えない不安に駆られてしまう。
あくまでもこの試練は、仇を討つための第一歩でしかないのだ。ルーヴェンは自分にそう言い聞かせた。
「……ここは奇麗な森ね」
周囲を警戒しつつも、気楽な口調でピリカレラは言う。鳥がさえずりながら頭上を通り過ぎて行き、色鮮やかな蝶が舞っていた。時折ケルビが木々の合間を駆けて行くのも見えた。ここが自然の恵みに溢れた、しかし危険な森であることはルーヴェンもよく知っている。
「奇麗だけど、平和とは言えない。ナルガクルガがいる」
「うん。あいつは私たちが倒さなくちゃいけない」
「あんたのお兄さんの仇だもんな」
ルーヴェンの言葉に、ピリカレラはきょとんとした顔で振り向いた。何の話だ、とでも言いたげな表情だ。
「仇?」
「お兄さんをナルガクルガに殺されて、仇を討ちたいんだろう」
当然そうだと思っていたことを、ルーヴェンは口にした。だがそれに対する答えは、彼にとって予想外の言葉だった。
「竜相手に仇討ちなんて、意味ないでしょ」
あっさりとした口調のその言葉は、ルーヴェンの心に深く突き刺さった。謎の竜によって全てを失い、その復讐のみを目標に過酷な訓練を耐え抜いてきた。村を壊滅させたあの竜を、自分の手で倒すことだけを願って。
そんなルーヴェンにとって、ピリカレラの言葉は自分の人生そのものへの否定と同じだった。モンスターへの復讐など空しいだけだ……師からもそう諭されたことがある。それでもルーヴェンはあのモンスターが許せなかったのだ。自分と同じく、モンスターに肉親を奪われた少女がそんなことを言うのはどうにも納得がいかなかった。
「それじゃ、あんたは何故その迅竜を……!」
やや高ぶった感情で問いかけたときだった。
周囲で茂みのざわつく音と共に、犬の吠えるような声が聞こえてくる。この大陸のハンターなら聞き慣れた鳴き声だ。ルーヴェンは背中の愛刀に手をかけ、ピリカレラも鉈を鞘に納め、鹿角ノ弾弓を手にする。棘のついた球形の弾丸をポーチから出し、弦に番えた。いつでも撃てる体勢だ。
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