第十五話 蠢動
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ルローン要塞には良い思い出が有りません。ここに来ると憂欝になる」
冗談を言っている口調では無い、心底憂欝そうな口調だ。はて、隣を歩くシュトライト准将に視線を向けた。准将も心当たりが無さそうな顔をしている。
「体調が悪いのに無理をされるからです。あの身体で停戦交渉など……、どれだけ心配したか」
「心配? 私の事を叱り飛ばしていたじゃありませんか、この人は病人を労わるという事を知らないのだと思いましたよ、つくづく自分の運の無さを恨んだものです」
「心配したから注意したのです!」
憤然として抗議する少佐に公が笑い出した。なるほど、前回の戦いで公が停戦交渉に赴いたという事は聞いた事が有る。体調が悪かったという事もだ。どうやらその時の事らしい。公がこちらを振り返った。
「あの時はビッテンフェルト少将の乗艦で停戦交渉に行きましたが少将に呆れた様な顔をされた事を覚えています」
「あ、いや、そんな事は有りません。病身を押して行かれるので大変だと思ったのです」
慌てたように答えるビッテンフェルト少将にまた公が笑い声を上げた。意地の悪い声では無い、何処か楽しそうな明るい声だ。
「ビッテンフェルト少将、悪い事は出来んな」
「悪い事とは何だ、俺は何も悪いことなどしておらんぞ、ワーレン少将」
「その割には慌てているようだが」
ルッツ少将の突っ込みに皆が笑い声を上げた。アイゼナッハ少将も声を出さずに笑っている。ビッテンフェルト少将も諦めたように苦笑した。
案内された部屋にはゼークト駐留艦隊司令官、シュトックハウゼン要塞司令官の二人がいた。二人が敬礼し公もそれに応える。互いに礼を交換するとゼークト駐留艦隊司令官が口を開いた。
「公爵閣下におかれましては……」
「あ、いや」
「?」
「その、公爵というのは止めてください。私は軍人としてここに居るのですから」
ゼークト、シュトックハウゼン両大将が困惑した様な表情を見せた。我々も同じ事を言われている。公は自分がブラウンシュバイク公と呼ばれる事を好んでいない。というより公爵という事で敬意を払われる事を好んでいない。爵位よりも能力で評価して欲しいと思っているようだ。無能な貴族に対しての反感がそうさせているのかもしれない。
以前一緒に宮中の警備に就いた事が有るから分かっている。この人は無能で有りながら尊大な貴族に対して非常に厳しい。爵位で呼ぶなというのは連中と一緒にされてたまるか、そんな思いがあるのではないかと私は思っている。
面白い。帝国最大の貴族であるブラウンシュバイク公爵家の当主が実力主義の信奉者なのだ。実際に遠征軍の人事は公の意向によるものと言われているが集められたのは下級貴族と平民だ。門閥貴族など一人も居ない。
改めて挨拶が済むと補給及び修理の要請を公から二人
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