良い人と姉
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引き返そうとしたあたしの足がぴたりと止まった。
・・・待てよ。これ、売れるかも・・・?
気がつけばあたしは落ちていたそれを握りしめていた。おお・・・思ったより重い。うん、仕方が無いのよ仕方が。地獄の沙汰も金次第と言うし、先立つものが無きゃね。しかもこの持ち主には恨みがありまくりだから、慰謝料としてこれぐらい貰ってもバチは当たらないと思う。
まじまじと見れば、その緋色の楕円形をした棒は・・・多分棍って武器だと思うんだけど、表面にもの凄い精密な意匠の細工が彫り込まれていた。これは・・・相当高いものかも・・・。
しかも結構使い込まれている。
うー・・・ん。大事なもの、かなぁ。そしたら流石に売り飛ばしたら悪いかなぁ・・・。でもあの男に次会うかなんてわからないし、それより何より金貨・・・。
あたしが良心と悪魔の狭間で揺れていると、ガザザッと大きく草の揺れる音が、耳に飛び込んできた。
あたしはぴたりと動きを止める。
風?いや、違う。聞き間違いという訳でも、ない。確かに聞こえる。草と草が擦れる音。
あたしが気づいたと同時に、その音はもの凄い早さで、こっちに向かってくる!?
音の大きさからして、小動物ではないのは明らかだ。少なくとも、あたしよりは大きいサイズの、生き物・・・。
まさか・・・ルッペン!?
あたしは腰を落とすと身構えた。無意識に拾ったばかりの棍を構える。
そういえば金貨に目が眩んでルッペンがどんな動物なのか聞き忘れたなとあたしはふと思った。
でもこの際、動物でも魚でも鳥でも虫でも化け物でも何だってもういいわ!悔やんだって今更聞きに戻れるわけじゃなし。どんな相手だって、先手必勝あるのみよ!出会い頭に一発食らわせて、ノエルのために金貨ゲットっ!
あたしは息を潜め、タイミングを見計らう。
音は見る見る間にあたしとの距離を無くす。もうすぐそこまで来ているのに、激しく揺れる草しか見えないのは、流石にこの森の緑が深すぎるからか。
さん、に、いち・・・今だ!
あたしは姿の見えない敵に、思い切って上段に構えた棍を振り下ろした。
「やぁっ・・・えっ!?」
目の前の草が割れ、黒尽くめの巨体が飛びだしてきて棍を受け止めたのと、月光の下で、漆黒の瞳が驚いたように見開かれたのは同時だった。
互いに、烈しく見つめ合う。
「おまえ・・・!」
あたしの攻撃を腕で受けたのは、ルッペンでは無く、この棍の持ち主である
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