良い人と姉
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ぶぶふぉっ!
あたしは行く手を塞ぐ自分の背丈ほどの草を乱暴に払う。払った先もまた草、草、草・・・見渡す限り、一面、クサ。しかもどかしたはずの草が勢いをつけて戻ってきて、びしりとあたしの顔面を強打する。
「・・・」
…いや、こんなことで腹を立てていたらキリが無い。果たしてどれぐらい歩いたのだろう。もうずっと、こんな獣すら通らない道無き道を進んでいる。
何せ緑が深すぎて、自分が今どこにいて、どっちに進んでいるのかも分からない。
ギルドムキムキの男どもが汚い字で黄ばんだ紙に書いてくれた落書きのような地図も全く役に立たない。
そもそもこれ、方角が一切書いてないなんて!
「はーお腹すいた!」
草の海を泳ぐのにも飽きて、あたしは叫んだ。腕を伸ばして背伸びをすれば、草や木で傷だらけになった自分の肌が見える。
「いてて・・・」
ぐぅきゅるるる〜・・・と情けない音がして、それはどうやらあたしのお腹の虫であるらしい。
食料も何も持ってきてなかったから、もう・・・お腹すいたすいたすいたぁ!
あたしは四肢を投げ出して座り込みたい衝動に駆られた。よく見れば月も出ているではないか。
「よる・・・」
あたしはぼんやりと呟き、はっとした。
宿屋には可愛いノエルがひとりで震えているのだ。夕刻までに帰ると言ったあたしが戻らなければ、優しいあの子は心配するだろう。はやく帰ってあげなければ。ああでも金貨、じゃなくてルッペンを倒さないことには手ぶらでは帰れない・・・。
「ぬん!?」
そんなことを考えていたら、足をいきなり何かに突っかけて、あたしはべちゃりとすっ転んだ。
「いたた・・・なに?」
何となくノエルを見つけた時のような既視感を覚えながら起き上がると、草に見え隠れしながら、そこには、何と、見覚えのある緋色の棒が転がっているでは無いか!
思い返すまでも無いそう昨日、この棒で叩き払われた腹部がじわりと痛み、走馬燈のように、石飴屋のおじさんの怒り狂った顔とか、藁の上に石飴塗れで投げ飛ばされたこととかが過ぎる。
これを持っていたのは黒い目で、黒い髪の・・・。
「・・・」
よし、見なかったことにしよう!
いけ好かない顔が頭に浮かんだ瞬間、ぜろコンマ三秒で判断して、あたしはむくりと立ち上がると強く膝の土を払った。
あーあ!ついてない。いやぁ〜なこと思い出すし、転ぶし、玉のお肌は傷だらけだし、ルッペンはいないし、金、貨・・・。
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