第一部
第五章 〜再上洛〜
六十三 〜州牧〜
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れ……。恋、寂しい」
「ねねも同感ですぞ。全く、酷い仕打ちなのです!」
月の諸将が憤る中、当人はずっと、無言だった。
「月。少し、外で風に当たらぬか?」
「……はい、お父様」
と、疾風が一足先に、外へと出て行った。
影から、警護を務めようという事であろうな。
外は、見事に晴れ渡っている。
だが、吹き付ける風は冷たい。
熱気に満ちた室内で火照った身体には、寧ろ心地良い程だ。
並んで、庭園の岩に腰掛けた。
「折角、一緒にいられると思った矢先でした……」
月は、悲しげに呟く。
「八校尉については、存在が宙に浮いていたのだが……よもや、このような策に利用されようとはな」
「どうして、こうなってしまったのでしょう……私は、地位なんて望んでいないのに」
「……それは、皆がわかっている事だ」
「……いいえ。残念ですが、わかっていただけない方々も……」
「気に病む事はない。……連中には、話が通じぬだけの事」
後でわかった事だが、陛下が私を一時的にせよ校尉に命じた事は、程なく十常侍に漏れたようだ。
そして、当然の如く陛下は十常侍らから叱責を受けたとの事。
……本来、宦官が皇帝に叱責する事自体、不敬の極みだ。
だが、奴らは狡猾にも、何太后を動かした。
両者の関係は未だに良好であり、何太后と言えども、十常侍らの言を軽んじる事は出来ぬようだ。
そして、未だ幼少の陛下は、母君である太后に頭が上がらぬ。
君臣の奸に、陛下は思いもままならぬ……そんなところであろう。
「月」
「……はい」
「お前が、本当に堪えられぬ……そう申すならば」
月は、大きく頭を振る。
「いいえ、私なら大丈夫です。……勿論、お父様と一緒にいたいのは確かですけど」
「…………」
「それに、陛下も協皇子も、私だけを頼りにして下さっています。それを裏切る訳にはいきませんから」
どうして、そこまで己を犠牲にするのだ?
月の言う事は事実やも知れぬ。
……だが、全てを月が背負う事ではあるまい。
こんなにも純粋で穢れのない少女が、運命に翻弄されるだけとは。
私は、黙ってその肩を抱いた。
「お父様?」
「……お前を、人身御供にはせぬ。いや、させぬぞ」
腕に、力を込める。
「もう、こうしてやれる事も暫くはあるまい。……今のうちに、父の胸で泣いておけ」
「……お父様っ!」
堰を切ったように、月の眼に涙が溢れ出す。
「不甲斐ない父で済まぬ」
「お父様、お父様。そんな事、言わないで下さい」
「……斯様な事態を招いても、打開する事も儘ならぬのだぞ?」
「お父様は悪くありません。……大好きなお父様……ぐすっ」
その後は、もはや言葉にはならぬ。
つくづく、無力だな……私という存在は。
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