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極短編集
短編43「時を超えて」
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夫だよ。忘れたのかい?」

 そういうと老医師は、とても優しい眼差しを女の子に、いや老婆にむけた。

「先生……えっ!?」

 いつしか写真の中の男の子は、素敵な男性になり、白衣を着ていた。

「君のそばにいたくてね」

 写真の中で、二人は結婚式をしていた。眠れる新婦とタキシードを着た新郎。その周りでは、二人の家族や友達がいた。

「大丈夫、僕らは家族だよ」

 老婆は、写真の束を一枚一枚めくる度に、止まった時間が動きだした気がした。写真の中の男性は、どんどん今の老医師に姿が近づいていった。

「時を超えて〜♪」

 老医師は、少し調子の外れた歌を歌った。

「僕は君を愛しているよ。あの時、言えなくてごめんね」

 そう老医師は言うと、老婆の手を握り締めた。そして二人は最期の写真を、一緒に並んで撮った。こうして今、84年の時を越え……



 二人は一緒に、天寿を全うしたのだった。

おしまい



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