短編41「まだ、恋人じゃなかった!!」
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「いたっ」
男は足踏まれた。
「すっ、済みません」
足を踏んでしまった人が謝っている。毎日毎日、「痛勤」ラッシュだ。
「せんぱい……先輩」
声がする。男が振り向くと後輩がいた。
「先輩、おはようございます」
「今日も混むな」
「毎日ですね」
二人はそれっきり黙り込んでいた。男の視線は窓の外を見ていた。
「先輩は、何を見ているんですか?」
「海、見てた」
男は『あっヤベ、うっかり言ってしまった!』と思っていた。
「えっ!?」
後輩は、窓の外を一瞬見て不思議そうにしていた。
「海なんてありませんよ〜」
後輩は男が冗談を言っていると思っているようだ。男は困った顔をしながら説明をした。
「目の前が海だったらって想像するんだよ」
男が言うと後輩の頭に?マークが浮かんだ。
「俺のメンタルコントロール法なんだよ。脳は目で見てる訳ではなくて、イメージを見てるんだよ。だから電車の窓の外は海だって思えば、そうそう気分になれるんだよ」
と、男は言った。
「凄いですね!先輩は毎日、海を見ながら通勤してたんですね」
「最近はな。前はエジプトのピラミッドだった」
と、男が目線で伝えたのは、高層ビルの群れだった。男にはピラミッドに見えていたのだ。
「脳は、イメージを見ているんですね〜」
後輩は何かをイメージしている様子だった。
『だったら私は……』
「いきなりなんだよ」
「いけない!つい腕くんじゃった!!」
後輩は顔を真っ赤にしていた。そして心の中でつぶやいたのだった。
『まだ……
恋人じゃなかった!!』
おしまい
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