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極短編集
短編17「デートごっこ」
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て下さい!」

 僕は渋々、僕が良く行くお店に後輩を連れて行った。

「へえ〜先輩に、こんな趣味があるんですね!」

 薄暗い店内には、所狭しと熱帯魚が泳いでいた。

「何がいるんですか、先輩の家に?」

「ネオンテトラだよ」

「うわ〜ロマンチック!いいですね〜、熱帯魚見ながらのエッチっ!!」

「なっお前、何言ってんだよ!」

 僕は、慌てて後輩の口をふさごうとした。

「きゃ〜、襲われる〜!」

 周りの客や店員が、こっちをみて笑っていた。

『ああ、もうここの熱帯魚屋これね〜』

 と、僕は思った。その後はお決まりのコースだった。ちょっとリッチな夕食をしてから、少しほろ酔いになった頃、僕らは夜景の見える所にいた。後輩は、ちょっと寂しそうな顔をして僕に言った。

「先輩。ここでキスをして、今日のデートはお仕舞いです。でもそれは、本当の彼女とのデートでしてください。今日は練習ですから」

「なあ」

 僕は、ずっと胸につかえている事を聞いた。

「なあ、練習ってさあ。誰の為の練習だったんだ?」

「さあ、誰のって……」

 後輩は下を向いていた。でも、少しすると、意を決したように後輩は言った。

「誰のって、先輩とあの人に決まっているじゃないですか?」

 後輩は、作った笑顔のまま首をかしげていた。

「あのさあ、お前勘違いしてるだろ?」

「何を……ですか先輩?」

 後輩は目を伏せ、体をかたくしている。

「僕が、彼女と話してたのは」

「言わないで下さい!」

「だっ、だから」

「分かっています!先輩が誰を好きかって事」

 後輩は泣きそうな声になった。

「だから私は、最後に先輩と……」

「だから勘違いだって!」

「勘違いってなんですか!?だって先輩、デートに行くって、話してたじゃないですか?」

 目に涙を浮かべた後輩が、僕をジッと見つめていた。

「僕が彼女と話していたのは……」

 と、僕は言うと、彼女の手をつかみ自分の方へ引っ張った。

「キミとのデートの相談だったんだよ」

 後輩の髪の甘い匂いがした。 目の前に後輩がいて、僕は後輩を抱きしめた。

「先輩……」

「こっちを向いて」

 瞬きをする後輩の目から、ポロっと涙がこぼれた。

「こんな顔、恥ずかしいです」

 後輩は顔を伏せた。僕は、後輩の耳から後ろにかけて、優しく髪をかき分け、後輩の顎をクイっと向けさせた。後輩は、ゆっくりと目をつぶり少し背伸びをした。

「大好きだよ」

 そして僕は後輩の唇に……



 キスしたのだった。

おしまい

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