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塗り壁
3部分:第三章
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れたのだった。そしてそれからだ。
 塗り壁は出なくなった。夜に道を阻む者はいなかった。そのことについてだ。 
 十郎はだ。こう五郎に話した。川のその堤を見ながら。
「あの塗り壁はよい妖怪じゃったな」
「いい妖怪もいるとは聞いていましたが」
 中には人を食う様な悪い妖怪もいる。しかしだというのだ。
 それとは別にいい妖怪もいてだ。それでだというのだ。
「あの塗り壁もそうでしたな」
「うむ、夜の鉄砲水から人を守りじゃ」
 そうしてだというのだ。
「堤ができればそっと去ったからな」
「そうしたこともわかっている妖怪でしたな」
「うむ、まことによい妖怪じゃった」
 十郎はしみじみといった口調で話していく。
「全く以てな」
「左様ですな、まことに」
 こうした話をしてだった。二人はその堤を見るのだった。その堤ができてから再び塗り壁が出たことはなかった。しかしそれでもだった。
 塗り壁がいなくては堤はできなかった。それもまた事実だ。人を守り堤も作らせた。この塗り壁は実にいい妖怪だった。熊本のある川に残っている話だ。


塗り壁   完


                2011・9・26

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