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第一章
塗り壁
夜道をだ。二人は歩いていた。
兄の塚橋十郎はだ。弟の塚橋五郎に話していた。見れば二人の腰には二本差しがあり袴を穿いている。そしてその頭には髷がある。
その若い二人、まだ前髪立ちの二人が話をしている。その中でだ。
十郎はだ。五郎に言うのだった。
「何でもここにだ」
「ここにとは?」
「化け物が出るらしい」
十郎は笑ってだ。五郎に話した。
「この道にだ」
「この道に化け物がとは」
「そうじゃ。突然前に出て来てじゃ」
「人を襲って食うのでしょうか」
「いや、人は襲わぬらしい」
そうではないとだ。十郎はこのことは否定した。
「何でも前に立ってじゃ」
「人の前に立ち」
「通せんぼをするらしい」
「それはまた変わった化け物ですな」
五郎は兄の話を聞いてだ。首を傾げさせながら述べた。
「通せんぼをするだけとは」
「そうじゃな。化け物、妖怪と言ってもよいな」
「同じ意味ですな」
「その妖怪というものは書を読むとじゃ」
「どうなのですか?書にある妖怪共は」
「どうもじゃ。その行動は得体が知れぬ」
そういうものだとだ。兄は弟に話す。
「訳のわからぬ行動が多い」
「左様ですか。わからぬものですか」
「一つ目小僧はただその一つ目で人を驚かせるだけじゃ」
まずはよく知られたこの妖怪から話される。
「そしてから傘にしてもじゃ」
「あの傘に目や手足がある」
「あれも同じじゃ。ただ驚かせるだけじゃ」
そうするだけだというのだ。
「砂かけ婆も砂をかけるだけで一反木綿は飛んで時折人を驚かせるだけじゃ」
「ただそれだけですか」
「まことにそれだけじゃ」
それがそういった妖怪達のすることだというのだ。
「全く以て訳がわからん」
「ではその通せんぼをする妖怪もですか」
「そうじゃ。訳がわからん」
その通せんぼをする妖怪についてもだ。そうだというのだ。
「それがこの道に出るのじゃ」
「左様ですか」
「さて、真に出るか」
十郎はここから話した。
「して本当に通せんぼをするだけか」
「それを見定める為にこうしてそれがしを連れてだったのですか」
「そうじゃ。確めたくてじゃ」
今この夜道を歩いているというのである。
「そういうことじゃ」
「左様でしたか。しかし」
「しかし?」
「若しもその妖怪がただ通せんぼをするだけでなく」
五郎はそうでない場合についてだ。兄に話すのだった。
「我等を襲う妖怪ならば」
「その時はどうするかか」
「はい、如何為されるのですか」
表情は消してあるが真面目な口調でだ。彼は兄に問う。
「その場合は」
「その場合はじゃ」
「はい、その場合は」
「何の為に刀を
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