3部分：第三章
[8]前話 [2]次話
第三章
「長屋の中でもそうしたことは気をつけてくれよ」
「全くだよ。どういうつもりだい」
「何故見られたかは考えぬのか？」
「だから覗きだろあんた」
「そうなんだろ？だからだろ」
「言っておくがわしはじゃ」
何かというのだ。それは。
「この長屋の人間ではない」
「あれ、じゃあどの長屋だい？」
「どの長屋にいるんだい？」
「この長屋におるが人ではない」
こう二人に返すのだった。
「そうなのじゃよ？」
「ああ、じゃあ妖怪か」
「それなのか」
ここでだ。二人は気付いたのだった。
目の前にいるそれがだ。何かというとだ。
「この長屋結構古いからなあ」
「そういうのも居ついたんだね」
「妖怪は野良犬か野良猫か」
「まあそうは言わないけれどな」
「けれど住み着いてるんだよね」
「住んでることは確かじゃ」
妖怪もそのことは認めた。それでだ。
そのうえでだ。二人にこうも言った。
「わしの名前は知らんな」
「だから妖怪だろ？」
「それだよね」
「妖怪にも名前がある」
妖怪は二人にむっとした声で返した。
「そんなことも知らんのか」
「いや、おいら達妖怪に知り合いなんていないからよ」
「そんなの知らなくて当然だろ」
「それはそうじゃが。しかし」
それでもだと。妖怪は憮然となって言った。そうしてだ。
そのうえでだ。彼はようやく名乗ったのだった。
「名乗ろう」
「ああ、それで何て名前だよ」
「聞かせてくれるんだね」
「油すましという」
それがだ。彼の名前だというのだ。
「油を粗末にする者を叱るのがわしの仕事じゃよ」
「何っ、油っていうと」
「まさか」
油と聞いてだ。二人はすぐに言った。
その妖怪油すまりをそれぞれ指差した。怒った顔で咎めてきたのだ。
「手前かよ、うちの油をどうにかしてるのは」
「そうだったんだね」
「御主等は言われたことを理解できぬのか？」
彼等の怒りの言葉には呆れた言葉が返って来た。
「全く。わしは油を粗末にする者を叱る妖怪じゃぞ」
「ああ、そういえばそう言ったな」
「そうだったね」
「どういう頭と耳をしておるのじゃ」
油すましもむっとしている。
「馬鹿にも程があろう」
「馬鹿って言う奴が馬鹿だぞ」
「そうだよ。変な顔と姿して」
「ええい、いい加減に妖怪の話を聞け」
油すましは痺れを切らして二人を叱った。
「わしがここに出て来た理由は他でもない」
「その油がなくなることだよな」
「それだよね」
「そうじゃ。そのことじゃ」
話はようやく本題に入った。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ﾍﾟｰｼﾞ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿ｻｲﾄ〜
利用規約/ﾌﾟﾗｲﾊﾞｼｰﾎﾟﾘｼｰ
利用ﾏﾆｭｱﾙ/ﾍﾙﾌﾟ/ｶﾞｲﾄﾞﾗｲﾝ
お問い合わせ
2024 肥前のﾎﾟﾁ
しおりを解除