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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とあるβテスター、少女を抱きしめる
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アインクラッド第1層主街区『はじまりの街』。
先細りの構造となっている浮遊城アインクラッドの最下層に位置する町で、その総面積はアインクラッドの基部フロア、その凡そ2割にも及ぶ。
このゲームにログインしたプレイヤーが最初に訪れる街であり、同時にアインクラッドの中でも最大の規模を誇る街でもあるため、ゲーム開始から半年以上経った2023年6月現在でも、依然としてこの街を訪れるプレイヤーは多い。
商店通りに立ち並ぶ多種多様な店舗をはじめ、モンスターの特殊攻撃による呪い《カース》の解除を行う教会や、『蘇生者の間』と呼ばれる、戦闘不能となったプレイヤーの復活地点───現在、そのの機能は停止しているが───を擁する巨大な宮殿『黒鉄宮』など、SAOというゲームにおいて重要な役割を持った施設が集中した街である。

また、この街はSAO一の大所帯ギルド《アインクラッド解放同盟》の本拠地となっており、低レベルプレイヤーへの物資配給や悪質プレイヤーの取り締まりなどを行い、街の治安維持に努めている。
ギルドへの加入希望者は日を追って増加傾向にあり、彼らの指導者的立場にある騎士ディアベルは、現在、街の中央に位置する黒鉄宮を軍用施設として利用できないか検討している最中だ。

近頃は日が延びてきているとはいえ、まだ夏には程遠い。午後18時ともなれば既に日没は過ぎ去っており、広大な街を夕闇が包み込んでいた。
日中、燦然と輝いていた太陽は影を潜め、仲間達と談笑の花を咲かせていた者や、日課の狩りから帰還したパーティのメンバー達が、思い思いの帰路に就くために目抜き通りを通過していく。

───嘘だ。

そんな周囲の光景には目もくれず、少女は夕刻の街を一人、一直線に駆けていく。

───嘘だ。嘘だ。

壊れたレコードの針が飛ぶように、ただその言葉だけを、幾度も幾度も繰り返しながら。
人波を掻き分け、慣れ親しんだ街の慣れ親しんだ道を、ただひたすらに走った。
通りを横並びに歩く女性プレイヤーの一団をもどかしく思いながら、彼女達と建物との間をすり抜けるように追い越し、目的地へと疾走する。

───嘘だ、嘘だ、嘘だっ!!

この街で知り合った、自分と同い年の彼女。
自分と同じくらい怖がりで、臆病で。自分の意見を他者に伝えることすら覚束ない、か弱い彼女。
戦うことに並々ならぬ恐怖心を抱きながらも、寝食を共にする仲であり、現実世界の友人でもある仲間達のために、必死に堪えていた彼女。

歯を食いしばり、血を吐くように喘ぎながら疾駆する少女の脳裏には、出会った日から今日この時まで、共に過ごしてきた彼女との数々の思い出が、幾重にも駆け巡っていた。
まるで走馬灯のようにも思えるそれが、彼女がもういないことの証であるかのように思えて、少女は頭で、心で、懸命に否定する
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