つぐない
とあるβテスター、少女を抱きしめる
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普段の彼女との落差を感じずにはいられなかった。
「あ、たし……、あたし、フレンドリスト…、開いて……っ。そしたら、サチが、サチがっ……!ログアウトって、なってて……!」
───ログアウト。ネットワークとの接続を切ったということを示す用語。
だけど、このゲームでのプレイヤーによる意図的なログアウトは、開発者───茅場晶彦によって封じられている。
つまり、今のSAOで、プレイヤーがログアウト状態になるということは。
ナーヴギアが発するマイクロウェーブによって脳を焼かれ、現実世界での死を迎えたということに他ならない。
「あ……、あたし絶対に、う、うそだって、思って……。でも、サチの名前に、横線っ、引いてあってっっ! な……、なんで、どうしてっ……、こんな、ぁああぁああぁあ……っ!!」
「ルシェ……ッ!」
悲しいのは僕も同じだ。サチの死をどうしても認めたくなくて、頭の中には様々な想いが駆け巡っている。
……だけど。大切な友達を失って錯乱するルシェの前で、僕まで取り乱しているわけにはいかなかった。
騒ぐ思考の一切をかなぐり捨てて、嗚咽するルシェを抱き締めた。
彼女の悲痛な慟哭を聴きながら、回した手に力を込める。小さな肩の震えを抑えるように、強く、強く。
普段は明るく振る舞っているけれど、本当はとても臆病な彼女にとって、親友の死という現実は、あまりにも残酷で───あまりにも、重すぎた。
だから今は。せめて今だけは、思う存分泣けばいい。君の気が済むまで、僕はこうしていよう。
人が死ぬところを見慣れてしまった僕なんかよりも、サチの親友だったこの子のほうが、ずっとずっと、辛いはずなのだから───
────────────
どれくらいそうしていただろうか。
泣きじゃくるルシェを宥めているうちに、少しずつではあるものの、僕は冷静さを取り戻していた。
そんな自分の薄情さに嫌気が差しつつも、しゃくり続けるルシェの背中を叩きながら、僕は彼女の頭越しに、部屋の中央に鎮座する黒鉄の碑へと───そこに刻まれたサチの名前へと目を向ける。
【Sachi 6月12日 16時54分 貫通属性攻撃】
サチ。6月12日16時54分。貫通属性攻撃。あまりにも簡潔すぎるそれは、僕がここを訪れてからそれなりに時間の経った今でも、何一つ変わることはなく刻まれている。
サチの名前を改めて見ることで、彼女が本当に死んでしまったということを否が応でも実感させられて、ずきりとした胸の痛みと───同時に、僅かな違和感を覚えた。
───なん、だ……?
黒鉄製の碑にずらりと並ぶ他のプレイヤーの名前と見比べてみても、サチの記述に特別おかしなところは見られない。
斬属性攻撃、打撃属性攻撃、貫通属性攻撃、広範囲特殊攻撃、転落死───
モン
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