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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とあるβテスター、少女を抱きしめる
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『サチが死にました』

迷宮区での探索を終え、宿屋の部屋で休んでいた僕に送られてきた、たった一言のメッセ―ジ。
まるでタチの悪い悪戯のようにも思えるそれの送信者は、他でもないルシェだった。

黒鉄宮の重厚な扉を押し開け、蘇生者の間へと辿り着いた僕の目に映ったのは、自分の身長の倍はあるであろう、金属製の碑───生命の碑の前に頽れる、ルシェの姿。
生命力を根こそぎ奪われたように虚ろな表情をした彼女は、僕が入ってきたことに気が付かない。───あるいは、気が付いていても反応を返すことが出来ずにいるのか。
光を失ったライトブラウンの瞳は、生命の碑に刻まれた膨大な文字列の、ただ一点だけを見つめていた。

【Sachi 6月12日 16時54分 貫通属性攻撃】

サチ。6月12日。16時54分。貫通属性攻撃。
何の感情も籠らない無機質な文字列が、たった一行にも満たない文字列が、彼女の親友を、サチという少女を、その存在を───否定していた。
つい先日まで同じ世界に生きていたはずの彼女は、今はもう、どこにもいない。
こんな横線たったひとつで、サチという一人の少女の存在は、この世界から弾き出されてしまった。

「……、どう、して……」
本当なら、こういう時こそ僕がしっかりするべきなのかもしれない。
精気を感じさせない顔で座り込むルシェに、気の利いた言葉の一つでもかけるべきなのかもしれない。
だけど、それはできなかった。自分のものとは思えない程の、掠れた声で呟くことが精一杯だった。

自分の周りで誰かが死んだのは、これが初めてというわけではなかった。
戦いの中に、それも最前線で戦う攻略組に身を置いている以上、目の前で人が死ぬところを見る機会は少なくない。
一ヶ月ほど前、第25層のフロアボス攻略戦に参加した時も。迷宮の守護者である双頭の巨人によって、何人ものプレイヤーが死んだ。
……だけど。その時の僕は、彼らの死を悼みながらも、心のどこかで他人事のように感じていたのかもしれない。
感覚が───麻痺していたのかもしれない。
それが自分の友人知人ではなかったことを、亡くなった人に申し訳ないと思いつつも───安堵してしまうほどに。

そんなツケが、今頃になって回ってきたのか。
僕を嘲笑うかのように。見せつけるかのように。思い知らせるかのように。
初めて身近な人を───サチを失ってしまったという現実が、重く圧し掛かる。

「ルシェ……」
「……、ユノ、さ……」
実際には5分にも満たないはずの時間が、数十分にも数時間にも思えた。
何とか声を出せるようになった僕は、床に頽れたままでいるルシェの小さな背中へと呼びかける。
ここに至って、ようやく彼女はこちらを向いた。その色を失った表情に、
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