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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とあるβテスター、少女を抱きしめる
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───あの子が、死ぬわけない!

少女は、彼女を親友だと思っていた。
少女は、彼女を守りたいと思っていた。
少女は、彼女のことが大好きだった。

そうして、これからも、ずっと。いつか現実世界に帰る、その時が来るまで。
彼女と一緒に過ごす日々が、続いていくことを。庇護欲を掻き立てられ、女の自分ですら思わず守ってあげたくなるような、そんな親友と過ごす日々が続いていくことを。
少女は、何一つ疑っていなかった。

つい先刻、何気なく開いたフレンドリストから、彼女の位置情報が消失していることに気が付くまでは───


「──サチッ!!」
親友の名を叫び、重厚な扉を突き破らんばかりに、少女は黒鉄宮へと───かつての蘇生者の間へと雪崩れ込んだ。
クローズド・ベータの頃、戦闘不能となったプレイヤーの復活地点として用意された部屋の中心部には、《生命の碑》と呼ばれる巨大な金属碑が設置されていた。
重々しい黒鉄の碑には、SAOの正式サービス開始に伴い、ゲーム世界に囚われた10000人ものプレイヤー───その一人一人の名が、漏れなく刻み込まれている。

正式サービス開始以降、敵の攻撃によって戦闘不能となったプレイヤーは、以前のようにこの場所で復活することはない。
その代わりとでもいうかのように、戦闘中にHPを全損させたプレイヤーの名前には横線が引かれ、隣には死因と死亡時刻が刻まれる。
彼の者が、既にこの世にはいないということを示すように。

「サチ……ッ!」
ナーヴギアの開発者にして、たった一人で現在のVR技術を確立させた稀代の天才───茅場晶彦の手によってデスゲームと化した今のSAOにおいて、位置情報が消失《ロスト》するということは、それ即ち、死を意味する。
理屈では理解していた。フレンドリストから位置情報が消失した時点で、彼女の親友は───サチは、この世からいなくなってしまったのだと。
しかし───心が。親友の無事を信じたいと思う心が、それを否定する。

少女───ルシェは息を切らせながら、親友の名を捜すべく、碑に刻まれた名前へと目を走らせた。
あの子が死ぬはずがない。親友の位置情報が消失した理由は、彼女がHPを全損させたわけではなくて、何らかのバグによるものだったんだ。
散々送ったメッセージが無効となって戻ってくるのも、きっとサーバーの調子が悪かったというだけで。
明日になれば、何事もなかったかのように位置情報も戻っていて。しょうもないバグだったねって、二人で笑い合って。
そんな、いつもと変わらない日常が始まるはずだ。サチと一緒に過ごす、いつもの日常が。

そんな───微かな希望に縋り付きながら、少女は。
親友の名を、探し当てた。


「……うそ、だ」
そして、現実を、知らされる。



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