4部分:第四章
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第四章
「ですから。悲しまれることはありません」
「永遠のお別れではないからこそ」
「はい、また御会いできます」
それはだ。必ずできるというのだ。
「ですから悲しまれることなくです」
「その時を待てばいいのですか」
「夏が来て秋が来て」
そしてだ。さらにだった。
「冬が来て。その後で」
「また貴方が来られますね」
「その時まで待っていて下さい」
あくまでだ。その時までだというのだ。
「そうして下さい」
「わかりました。それでは」
「はい、それでは」
「次の冬が終わりまた貴方が来られる時を」
「どうかお待ち下さい。それにです」
若者の言葉がここで変わった。
「春は終わったのではないのです」
「といいますと」
「これからです」
清らかな笑みを浮かべてだ。こう雅娘に言ったのである。
「現に貴女は今春のはじまりを楽しんでおられますね」
「はい」
まさにその通りだとだ。雅娘は答えた。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「最高の楽しみを感じています」
「それは忘れられませんね」
とてもだとだ。若者は言って来る。
「春は」
「忘れられるものではありません」
「では。今を、私を覚えておいて下さい」
「そうしてですね」
「そう。そして」
そのうえでだとだ。若者は言葉を続けていく。
「また会いましょう」
「春のはじまりに」
「次の春のはじまりに」
その時に会おうとだ。話をしてだった。
若者は消えた。花霞の中に。
若者が消えたその時にだ。雅娘にだ。
女達がだ。こう言ってきたのだった。
「あの雅娘様」
「一体どうされたのですか?」
「何かあったのでしょうか」
「少し考えごとをしておられた様ですが」
どうやら周りには彼女が若者と会い話をしていたようには見えなかったらしい。それでだ。
彼女達は怪訝な顔になってだ。こう問うてきたのである。
「春の中で一体」
「何かを御覧になられたのですね」
「春を」
雅娘は彼女達にこう答えた。
「春を見ていました」
「では今ですか」
「春といいますと」
「今のことでしょうか」
「この春のことでしょうか」
「はい、そうです」
その通りだとだ。雅娘は彼女達に答えた。
そしてだ。さらにだ。彼女はこんなことも話した。
「春のはじまり。そして」
「そして?」
「そしてといいますと」
「また春になりますね」
今の春が終わってもだ。そうなるというのだ。
そしてだ。そのことを頭の中で確めながら雅娘はさらに述べた。
「春を忘れないで。待ちます」
「そうされるのですか」
「お嬢様は」
「はい、そうします」
こう話してだった。今の春を楽しみだ。春を忘れないで次の春を待つ、雅娘は若者
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