2部分:第二章
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第二章
こうだ。女達に言うのだった。
「では」
「はい、それでは」
「どうされますか、これから」
「まだここにおられますか?」
「田を見に行きたいのですが」
そこにだ。行きたいというのだ。
「そこに」
「田をですか」
「そこにですか」
「はい、そうしたいと思います」
また言う彼女だった。こうしてだ。
女達を連れてだ。それで山の近くのその田を見に行った。そこでは民達が蝶や小鳥に囲まれ田植えをはじめていた。水面に緑の稲が植えられていく。
民達は満面の笑顔だ。子供達が親達の周りではしゃいでいる。そして蛙達も彼等の足下で跳んでいる。その風景を見てだ。
雅娘は目を細めさせてだ。女達に話した。
「冬が終わり春になりますと」
「はい、田植えもはじまりますし」
「こうして誰もが出て来て」
「明るくなりますね」
「冬の雪もいいですが」
それもいいとだ。雅娘は話した。
「ですが春のこの明るさは何にも増していいですね」
「田を植えてこれが実ってですね」
「そして人に恵みをもたらす」
「そうなりますね」
「帝もそろそろ田を植えられます」
皇室の祭事の一つだ。帝は毎年それをされるのだ。
そのこともだ。雅娘は話した。
「春は。何もかもをもたらしてくれますね」
「まことにですね」
「その通りです」
「そして」
女達は雅娘にさらに話す。
「ここにもお花があります」
「小さなお花ですが」
「ここに」
「はい」
雅娘もだ。ここで見たのだった。
「あの花達ですね」
「そうです。あそこにある白い花達です」
「いいものですね。春の花は」
「ささやかに咲いていますけれど」
それでもだ。そのささやかさにこそだった。
彼女達はよいものを見てだ。目を細めさせて話すのだった。
「そのささやかさこそがいいですね」
「奇麗ですよね」
「小さな奇麗さですね」
雅娘はここでこんなことを言った。
「それですね」
「あっ、そうですね」
「小さいですがそこにえも言われぬ奇麗さがありますね」
「屋敷の庭に咲いているのとはまた違う」
「そうした奇麗さが」
自然にあるその美もだ。そこにはあった。
そうしたものを見ていってだ。春霞の中でだ。
雅娘はだ。ふとだった。
目の前にだ。一人の若者を見た。
紫の礼服を着ている。背は高く細面で白い肌である。
眉は黒く細い。目もまた黒く星が瞬いている様だ。その若者を見たのだ。
自然にだ。彼女は。その若者に声をかけた。
「あの」
「何でしょうか」
中性的な、女のそれにも聞こえる様な声でだ。若者は応えてきた。
「私に何か御用が」
「貴方は一体」
まずはだ。こう若者に尋ねたのだった。
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