無いもの/有るもの
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は俯きながら車椅子の肘掛けを怒りの意を込めて強く握りしめた。
「命を張って救った恩人に対して、何もせずにただ忘れたいっていう傲慢な思いで、あなたは一人の少女の人生を変えてしまった。彼女が歩んできたのは“恩人”や“ヒーロー”のような明るい道じゃない。“殺人者”、“人殺し”のレッテルを張られた暗い日影の道だ。それがどれだけ辛いか、あんたに理解できますか?」
「・・・・・」
「ちょっとシオン・・・ッ」
リズが割って入ろうとしたがそれを雫が静かに制した。
「でも、それは決して間違いではないんだ。人は誰しもこんな状況になれば目を逸らしたくなる、逃げたくなる。俺はその選択を恨みはしない。だから・・・」
雪羅は祥恵に対してその目に焼き付けるかのごとく言った。
「だからせめて、子供に誇れる親であってほしい。子供っていうのは、常に親の背中を追ってるんだ。この子もそうだ、今まさにあなたの背中を追っている。そんな親がいつまでも過去を後ろめたく思ってズルズル引きずるなんて、カッコ悪いでしょ?親なら、大人なら堂々と胸張って、いつまでも子供の憧れであってくださいよ・・・」
そう言い残して雪羅は『終わったら呼んでくれ』とだけ言い残して店の外に出ていった。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
「はぁ・・・」
冬の凍てつく空気に身をすくめ溜め息をつく。吐かれた吐息は白く染まり、その寒さを物語っている。
外に出た雪羅は中から僅かに聞こえる一人の少女の嗚咽を聞きながら天を仰いだ。
「相変わらずだね、君は・・・」
「シュタイナー・・・」
先程まで裏にいたシュタイナーは雪羅に声をかけると缶コーヒーを投げ渡した。
バー兼、喫茶店の前で缶コーヒーというのはいかがなものかと思いながらも雪羅はそれを啜る。
「何のことだ?」
「君は自分がもっと価値ある人間だということを自覚した方がいい」
「生憎、俺は自分を過大評価する気はないんだよ」
「そう言うと思った。君はそういう人間だ、弱音を吐かず、危険だと判断すれば誰も巻き込まず、その身を差し出す。そうやって誰も傷つけずにやってきた、でも・・・」
シュタイナーの目はどこか悲しげだった。
「得たものは孤立だった。SAOだって・・・」
彼は頭の中で考えてしまった。また、自分を傷付けるのではないかと。また、他者のために己を殺すのではないかと。
雪羅は缶を両手で包み込むと、それを眺めながら答えた。
「俺はあの時、ツバキが殺されてからはじめて後悔した。『もっと俺に力があれば』『アイツらを巻き込みさえしなければ』ってよ。怖かった・・・仲間が、大切な人が死ぬのは・・・。そ
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