第二部 文化祭
第59.5話 (番外編)
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「何してるの、キリトくん」
「あああああああああああ──!? ああ、びっくりした。なんだ、アスナか……」
「なんだ、の意味は後からじっくり聞かせてもらおうかな。一体どうしたのよ、こんな所で」
「ま、まあ黙って見てろって」
「見てろって、何を見──あっ……」
アルヴヘイム・プーカ領。
その壮大な広場で、アイボリーの髪を揺らし、人魚の如く美しい歌声を奏でる妖精少女がひとり。随分な人気を博しているようで、演奏終了後は、彼女の名を呼ぶ声、ブラボーと絶賛する声、アンコールを求める声が響き渡った。
「へえ、こんなことしてたんだ…………まりちゃん」
今のアスナの言葉通り、歌っていたのはプーカの歌姫こと、アインクラッド生である桜まりあだ。
アスナは溜息ひとつ吐けば、それまでぱたぱたと動かしていた羽根をシュンッと閉じて地面に降り立つ。
「キリトくんったら、こそこそせずに声掛けてあげればいいのに。おーい、まりちゃ〜ん!」
「お、おい、アスナ……!」
キリトの歯止めは間に合わず、アスナは大声でまりあを呼び、手を振りながら走っていった。
「……はぁ。まさか、お2人に見つかるだなんて」
まりあは恥ずかしそうに、両手で顔を覆っている。
「キリトくんは結構前から知ってたみたいだよー。まりちゃんが、ここで定期的に演奏会を開いてるってこと」
「う……す、すまん、まりあ」
ぽりぽりと頭を掻きながら謝罪するキリトに、まりあは苦々しい笑みで答えた。
「いえ、今更謝らなくてもいいですよ。もう終わったことですし」
「お、終わったこと?」
「あっ……」
まりあが突然口を噤んだ。
俺は自分の後頭部に手を回して、極力軽目の調子で言う。
「何だ、もう定期公演やらないのか。残念」
「…………やらない、と言うより、やれないと言うか……」
「え?」
「いえ、何でも。そんなことより、いいんですか? そろそろお昼の時間ですし、今頃沢山の生徒が学食に押し寄せているかと思われますが……」
「あ──! やばいッ、俺の昼飯!」
叫んだ俺は、即座にアインクラッドに戻って、真っ直ぐに駆け出した。
──その時まりあが寂しげな目で手を振っていたことを、俺は知らない。
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