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第一章
静かな勇者
ランスロットはよくこう言われていた。
「王への忠誠心も篤く物静かで」
「しかも人格は円満で」
「まことに素晴しい騎士だ」
「完璧な方だ」
アーサー王に仕える円卓の騎士達の中でもだった。
ガウェインと並ぶ最高の騎士とされていた。その彼を見てだ。
若い騎士達もだ。憧れと共に言うのだった。
「あの方の様になれればな」
「ああ、いいな」
「お強いだけでなく忠誠心も凄いしな」
「気品もあって人格者でもあられる」
「何処にも欠点はない」
「あの方みたいになりたいよな」
「本当に理想だよ」
騎士の理想とさえさえていた。彼は決して怒らず誰に対しても公平で思いやりがあった。それは彼が倒した敵に対しても同じだった。
戦場で彼に敗れ槍を手放し落馬した騎士にだ。彼は言った。
「槍を取り馬に乗られよ」
「何っ、殺さないというのか」
「私が戦うのは武器を持つ相手のみ」
だからだ。今はそうしないというのだ。
「さあ、戦われるのなら」
「槍を取り馬に乗り」
「それからに致そう」
こう言ってだ。その騎士、落馬し槍を手放した彼を倒そうとはしなかった。そして領民に対しても公平でありやはり思いやりがあった。彼が怒ったところを見た者はいなかった。
そしてだ。女性に対しても紳士でありだ。
全くもって非の打ちどころがないように思われた。その彼にだ。
若い、まだニキビが顔に残る騎士、名前をヴェインという。その彼が問うたのだった。
「ランスロット殿は怒られたことはないのですか?」
「私がか」
「はい。そうしたことは」
あるのかとだ。彼本人に問うたのである。
「おありでしょうか」
「いつも怒っている」
ランスロットはヴェインにこう答えた。この返答はヴェインにとっては意外なものだった。
それでだ。彼は目を丸くさせてだ。ランスロットにすぐに問い返した。
「あの、まさか」
「私とて人間だ」
また言う彼だった。
「怒る時はある」
「しかしそれは」
「見えないか」
「はい、見えません」
その通りだとだ。ヴェインはランスロットに言うのである。
「とてもです」
「そうか。見えないか」
「ランスロット卿が怒られるとは」
見たことがないと言ってだ。そうしてだった。
首を捻りながらだ。また言うヴェインだった。
「そんなことが」
「ではだ」
そのヴェインにだ。ランスロットは言ってきた。
「暫く私と共にいてくれるか」
「ランスロット卿とですか」
「そうすればわかる」
だからだというのだ。
「共にいてくれればな」
「わかりました。それでは」
ヴェインもだ。ランスロットが本当に怒るのかどうかを見
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