第一話
V
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ここは吉崎財閥社長、吉崎荘一郎の館。時刻は真夜中二時を回り、仕事を終えた荘一郎は床につこうとしていた。
「全く…この私に時間を割かせるとは、忌々しい娘だ。」
その日を振り返り、荘一郎は顔を顰めながら呟いた。
「あなた…あの子だってもう大人なんだし、好きにさせてあげましょうよ。」
荘一郎にそう言ったのは、彼の妻である由有子だ。
「お前がそう甘やかすから付け上がったのだ!SPと寝る様な女はただの娼婦だ!腹の子は堕ろさせる。いいか、これに関してお前は口出しするな!」
「あなた…。」
荘一郎は苦虫を噛み潰した様な顔をして布団に入った。そんな夫を悲し気に見ていた由有子も、少し遅れて布団に入ったのだった。
暫くして二人が眠りに入る頃、どこからともなく微かな音がし、荘一郎はそれに気付いて目を開いた。
「……?」
不審に思い、彼は起き上がって周囲を見回したが何もない。それでも気になり、布団から出て部屋の扉を開いて廊下を確認した。
そこは非常灯の明かりだけがぼんやりと灯っているだけで、これといって人影もなかった。
荘一郎は気のせいだと扉を閉めて振り返った瞬間、久しく感じなかった感情を抱いたのだった。
振り返った視線の先、薄明かりの中に人影があったのだ。そのシルエットから、荘一郎はそれが男だと確信した。
だが…何一つ気配がない…。故に、荘一郎は驚愕と恐怖とに見舞われ、体が硬直して動くことが出来なかった。
「な…何者だ…。」
大企業の社長で、時には手荒なことも厭わなかった彼が出来たことは、そんな一言を絞り出すことだけ。他には何も出来ず、ただその人影を見続けるだけだった。
「何者…か。それを聞いてどうする?」
人影は荘一郎に問い返した。その抑揚の無い声に、荘一郎はゾッとして言葉に詰まった。
確かにそこに存在する。そう理解は出来ても、心のどこかでは…目の前のこれは幻ではないか?はたまた人智を超えた何かなのではないか?…そう考えてしまうのだ。
ただ一つはっきりしていることは、目の前のこれは自分にとって「悪いもの」だと言うことだ。
「何も言い返さないのか?ならば、こちらが問おう。」
そう言うなり、人影は荘一郎へと近付いた。…いや、瞬時に彼の前に立っていた。音も立てず、ましてや気配さえ全く感じさせないそれに、荘一郎は気が狂いそうになっていた。
「お前は…何なのだ?」
荘一郎の耳元で小さく、それでいてはっきりとそれは言った。
彼は恐怖の中で気が付いた。その問いは表面的なものではなく、本質的なことなのだと…。
その刹那、荘一郎はそれから飛び退き、叫び声を上げて部屋から飛び出していた。
彼は走った。誰でも良い、人さえいれば…。そう思って走れども、その暗がりの中には誰一人見付からない。大声を上げて走
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