第一話
V
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り回っているにも関わらず、それに気が付いてやって来る者は一人もいなかった。
いつもであれば、この館には多くの使用人がいる。二人の息子さえいると言うのに、誰も気付かない。
「ま…まさか…。」
荘一郎は走るのをやめ、乱れた息を整えながら考えた。
そう…、部屋であれと話した時、妻の由有子は何も気付かず眠っていた。
「な…なん…何なんだ!」
荘一郎は叫ぶ。だが、それは虚しく空に四散して何の意味も為さない。
彼はこれが夢なのか現実なのかさえ分からなくなっていった。
「なぜ私がこんな目に!」
そして次に怒りが込み上げてきた。その怒りは徐々に増長して行き、彼は走ってきた方…すなわち、あれへと怒鳴った。
「私がなぜこんな目に遇わねばならんのだ!私は祖父の会社を大きくし、社員共が飢えぬ様に努めてきたのだ!家族にも何不自由なく生活させてやっていると言うに!」
「それがどうした。」
不意に耳元で声がした。あれの…あの男の声が…。
それを聞いた瞬間、怒りで熱くなっていた荘一郎の頭は急激に冷め、それを覆うかの様に恐怖が体と精神を支配した。
男の声は確かにした…。しかし、気配は全く無い。先程と同様、声だけがはっきりとしているのだ…。
「お…お前……人間じゃ…ないな…。」
荘一郎は振り返ることも儘ならず、ただそう口にした。
元来、彼はオカルトなど信じてはいない。いや、それこそ馬鹿にしていたのだ。負け犬の戯言だと。
だが、ここにきて彼は…それを改める他なかった。現に、こうして説明不可能なことが目の前で起こっているのだから…。
しかし、彼の頭の片隅では、これは誰かが仕組んだ悪戯だと…そう考えていた。自分を気に入らない誰かが罠を仕掛け、どこかで見て笑っているのだと…。
そんな考えを見透かしてか、男は笑みを含んだ声で荘一郎へと言った。
「お前はそんなこと信じてはいまい?お前が信じているのは財と権力だけだからな。」
「違う!私は…」
荘一郎が何か言いかけた時、不意に左肩に重みを感じた。まるで…誰かが肩に手を置いたかの様に。
「ヒィッ……!」
あまりの恐怖に、荘一郎はその場へとへたりこんだ。そして、彼はそれを確かめるべく恐怖を押して振り返った時、彼の周囲を蒼白い焔が取り囲んだ。
「…ッ!?」
そして見た…その焔の中に金髪の青年が立っているのを…。
その青年は古めかしい外套を羽織っており、頭にはシルクハットを被っていた。まるで何百年も前のイギリス紳士を彷彿とさせる姿だった。
「お前は私が誰か…そう問ったな?」
「…ッ!?」
荘一郎はもう何も聞きたくなかった。彼は目の前の青年を、一目でとてつもな怪物だと直感したのだ。それは生死を司る程のものであり…彼は自身の置かれた立場をやっと理解した。
荘一郎は逃げ
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