第一話
II
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などの弦楽器も演奏する、所謂「天才」なのだ。学生時代には既にデビューしていて、五十歳近い現在も精力的に世界を飛び回っている。
楓は十年ほど前に藤崎と共演したことがあり、ことあるごとにその話をしたがる。正直、釘宮はうんざりしているのだ。まぁ、藤崎の演奏は嫌いじゃないが、毎回同じ話をされるのは嫌なのは誰しも同じだろう…。
「さ、出来たから早く持ってって…。」
「あ、もう出来たの?まだ話の途中なのに…」
「いいから、早く持ってってやれ!」
「もう…分かったわよ。」
そう仕方無さ気に言うと、楓は大きなカゴに入れられたそれを受け取った。
「この水筒…珈琲ね。」
「ああ、奴はいつもこれだからな。ま、たまには顔出せって言っといて。」
「分かったわ。さ、早く帰って朝食にしなくちゃ!」
そう言うや、楓は風の如くいなくなったのだった。
釘宮は楓の出ていった方を見て、脱力して溜め息を吐く他なかった。
「何だかなぁ…。」
「まぁ君、あの人のこと…」
「そういうんじゃねぇよ!」
「え…もしかして旦那さんの方!?」
「んな訳ねぇだろうが!鈴野夜、そんな無駄口叩いてないで仕事しろ!」
溜め息を吐く釘宮に鈴野夜がちょっかいをかけたため、些か回復していた釘宮の機嫌が再び底を打ったのだった…。そのため、メフィストと大崎は黒いオーラを出して冷たい目で鈴野夜を見たのだった。 暫く仕事をするうちに、新人二人は何とか様にはなってきた。開店して半日もすると、大方の仕事は出来るようにはなっていた。
「なんだ、やれば出来るじゃないか…。」
カウンター内でカップを棚へしまいながらそう呟いた時、後ろから大崎が声を掛けてきた。
「オーナー。そう言えば、昨日の彼女…どうなったんですか?」
「そんなのヤツに聞け!」
機嫌良さげにしていたので聞いたのだが、これで振り出し。しかし、その一言で大崎は分かったように「やっぱり…。」と言ったのだった。大崎は鈴野夜が何者か知っているのだ。
「そんじゃ俺、これから休憩入るんで。」
「ああ、鍵忘れんなよ。」
「分かってますって。」
大崎はそう返して顔を引っ込めた。
時刻は夕方四時。傾きかけた日射しの中、店内の客も疎らになる時間帯だ。釘宮が店内を見ると、一人の客もいない。片付けをしている店員が二人、せっせと仕事をしているだけだったため、釘宮は鈴野夜とメフィストを休憩させて一人で店に残った。
「さて、洗い場に入るかな。」
閑散とした店内に、赤くなりかけた日が差す。店内には釘宮が収集したCDがかかり、それはそれで一種独特の趣ある空間だった。
だがそこに、数人の男達が入って来たため、釘宮は洗い場に入らずにカウンターから出た。
「いらっしゃいませ。」
釘宮は笑顔で対応しはしたが…その風体から客とは到底思え
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