つぐない
とあるβテスター、二人を見守る
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い。
リリアのような例外(彼は恐怖心を他者への攻撃性に転化するタイプだ)もあるとはいえ、戦いというものは基本的に、自身の恐怖心を抑えなくてはならない。
もちろん油断や慢心は論外ではあるけれど、最低限の恐怖を克服できなければ、あっという間に敵に付け込まれることとなる。
初心者を考慮した作りの最下層フィールドとは違って、10層以降に出現する敵は、そのほとんどが攻撃的《アクティブ》モンスターとなっている。
そんな相手と戦う時に怯えていたのでは、飢えた肉食獣の前に小動物が出て行くようなものだ。
「とりあえず……、慣れない武器でフィールドに出るのは、僕は反対かな。半年以上も今の武器でやってきたのに、いきなり上手く戦えるとは思えないよ。 ……どうしても転向しなくちゃいけないっていうなら、もっと時間をかけるべきだと思う」
本音を言うなら、前衛の出来るギルドメンバーを募集するなり、戦い慣れている男性陣が転向するなりして、彼女には戦わせるべきではない───そう言いたいところだけれど。
流石にこれ以上は、部外者の僕が口を挟める問題ではないだろう。最終的にどうするのかは、サチ本人とギルドメンバーたちで決めることだ。
「……サチ。嫌なら嫌って、ちゃんと言うんだからね? どうしてもギルドが嫌になったら、抜けちゃえばいいんだし。そしたら前みたいに、サチもこの街に住もうよ。あたしもそのほうが嬉しいしさ」
僕の説明でいくらか納得してくれたようで、彼女を労わるルシェからは、先程までの怒気は霧散していた。
今はそのかわりに、親友への労わりと慈しみで満ちている。
「うん……、ありがとう。でも、私は大丈夫だよ。片手剣士に転向するのも、たぶん、慣れれば大丈夫だと思うから」
「………」
だけど。
そんな親友の言葉に頷いたサチの表情は、御世辞にも大丈夫には見えなかった。
触れれば壊れてしまいそうな、危うい雰囲気。
傍から見ても、彼女が無理をしているのは一目瞭然だった。
今になって思えば。
僕はこの時、サチを止めるべきだったのかもしれない。
多少無理を言ってでも、戦いから遠ざけるべきだったのかもしれない。
あるいは。
ルシェが直談判しようとするのをやめさせなければ、少しは違った結末が待っていただろうか。
戦いから離れたサチと、彼女の親友であるルシェ。
二人が笑い合っている光景を、もう一度見ることができていたのだろうか。
僕には───わからない。
────────────
【西暦2023年 6月5日】
「最近、明るくなったと思いませんか?」
「へ?」
ルシェの問いに対する僕の答えは、なんとも間抜けなものとなってしまった。
彼女の話を聞きながらも、頭の中では別の───数日前に遭遇した、風変わ
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