明日への翼
02 BEYOND THE RAIN
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からなかったのも彼女だ。
確かに洋子は彼女として申し分ない。頭脳明晰で容姿も人並みはずれて可愛いし、運動神経もよくて、ほとんどのことをそつなくこなす。欠点といえば、わがままで気分屋ってことだ。少々「お高くとまっている」感じはするがそれもまたいいと男生徒の人気も上々だ。
だけどこのまま付き合って行きたいかと改めて問われると。
「ほらみなさい」
勝ち誇ったような瞳。
それがすぐに憂いの色に染まる。
「……仙太郎、あたしを見ていないもの」
奇妙な間が空いた。
「あたしの向こうに、あたしの知らない誰かを探してる。あたしを通して他の誰かを見てる。女の子ってね、そんなことには敏感なのよ──そして、そんな相手と付き合うことぐらい苦痛なことはないわ」
泣き笑いの表情。
洋子は席を立った。
「大丈夫、仙太郎ならすぐに素敵な彼女が見つかるわよ。もてるんだから……さ」
背中を向けて片手を振った。
じゃあね。
後は振り返りもしなかった。喫茶店を出て行く。
仙太郎は不思議と追いかけようとは思わなかった。
ほんの少しの寂しさと、どこか納得している自分。
『あたしの向こうに、あたしの知らない誰かを探してる』
確かにそうかもしれない。
洋子には申し訳ないが。
小学校の頃、よく遊んだ女の子。
綺麗な長い黒髪ときらきら光る黒曜石のような瞳。額の紋章。
スクルド。
川原で出会った女の子。
快活で天真爛漫を絵に描いたような笑顔。
街の北側にある古いお寺にいつの間にか住み着いた三姉妹の末っ子。
今となっては遠いことのように思える。
彼女の姉の恋人の突然の死は、ずっと一緒にいられると思っていた二人の間に、別れの時をもたらした。
楽しかった時間の終わり。
突然の別れ。
いなくなってしまった友達。
消えてしまった日常。
寂しさとせつなさと。
以来、彼の中にずっとある違和感。
まるで、間違った時間の中を歩いているような。
色を失った時間。
違うんだって感じてた。
こんなことは正しくない。
では、何が正しいのか。
答えられなかった。
そして、仙太郎にとっての現実は時を刻み、彼を中学校にあげて高校生にした。
不思議なことなど何も起こらないあたり前の日常。
このまま社会に出て結婚して──幸せになって。
でも、本当にそれでいいのだろうか。
自分が望んでいたのはこんな事なんだろうか。
喫茶店を出ると雨はまだ降っていた。
歩き出した。
どこかに行こうってわけではなく、なんとなくだ。あてなどない。
グレーの傘をさして人ごみの間を抜けていく。
雨。
灰色の時間。
灰色の午後。
すれ違う人の姿もどこか現実味を失って遠く影絵のようだ
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